2020 Fiscal Year Annual Research Report
Development of Biodegradable Adhesive Sheets with Anti-cancer Drug-releaseing Property
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20H02470
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
田口 哲志 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, グループリーダー (70354264)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 組織接着シート |
Outline of Annual Research Achievements |
外科手術後の創部に使用する医療用シートは、医療機器であるポリグリコール酸不織布、医薬品であるフィブリンシート、再生医療等製品である細胞シートに分類される。これらの医療用シートは一定の性能・効果はあるものの、術後の湿潤環境における組織接着性、生体親和性に課題がある。そこで本研究では、スケトウダラ由来ゼラチン(以下、タラゼラチン)のアミノ基に炭素鎖長10のデカニル基を修飾した疎水化タラゼラチン(C10-ApGltn)を主成分とする組織接着性シートを調製し、肺胸膜組織に対する接着性/耐圧強度および生体親和性について評価した。合成したC10-ApGltnを用いて、エレクトロスピニング法により組織接着性シートを作製できた。ブタ胸膜に対する耐圧強度試験を行った結果、C10-ApGltnシートは、未修飾ApGltnシートと比較して耐圧強度が約2倍増加することが明らかとなった。耐圧試験後のシート接着部位周辺組織を観察した結果、C10-ApGltnシートはブタ胸膜表面に接着し、凝集破壊が生じていることが確認された。一方、未修飾のApGltnシートでは、シートはブタ胸膜表面から剥離し、界面破壊が生じていることが確認された。さらに、ラット摘出肺を用いた耐圧試験においても、ApGltnに疎水基を導入することにより耐圧強度が約2倍増加することが明らかとなった。肺組織表面に対する耐圧強度/接着強度の増加は、胸膜表面の構成成分である細胞外マトリックスおよび細胞成分と疎水化タラゼラチン中のデカノイル基との疎水性相互作用が増加したためであると考えられた。さらに、ラット背部皮下にシートを埋入した結果、過度な炎症反応を生じることなく、21日間以内にシートが分解することが明らかとなった。以上の結果より、得られた疎水化タラゼラチンシートは、湿潤組織接着性と生体親和性を有することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた「疎水化タラゼラチンの合成と同定」については、スケソウダラ由来ゼラチン(ApGltn)に還元剤の存在下において炭素数10個のデカニル基を導入し、得られたデカニル化タラゼラチン(C10-ApGltn)の同定を核磁気共鳴装置(1H-NMR)、フーリエ変換赤外吸収スペクトル(FT-IR)により確認できた。また、「シートの作成および力学・表面物性評価」については、合成したC10-ApGltnを用いてエレクトロスピニング法によるファイバーシート作成条件を検討し、安定的にシートが得られる条件を最適化でき、シートの組成と力学物性、表面物性等についても明らかにできた。「シートへの抗がん剤導入方法の検討」については、抗がん剤含有C10-ApGltn溶液を用いてエレクトロスピニングを行うことによりシートが調製できた。「ブタ胸膜を用いたシートの耐圧強度評価」については、ブタ摘出肺より剥離した胸膜を用い、ASTM F2392-04規格に則ったシステムを用いて耐圧強度を測定し、C10-ApGltnにより調製したシートは有意にApGltnより耐圧強度が高いことを明らかにできた。さらに、ラット摘出肺を用いた耐圧強度試験およびラット背部皮下埋入試験についても実施できた。以上の結果より、当初の実施計画はほぼ実施されていることから、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定していた研究計画はおおむね順調に進展している。今後も本年度予定している研究実施計画を着実に実行することに加え、分子レベルでの接着メカニズムの解明、生体反応の解明等、より深い考察を示唆するデータの取得にも注力したいと考えている。
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Research Products
(16 results)