2020 Fiscal Year Annual Research Report
Light-driven coating of thin film in a non-equilibrium field
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20H02507
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
山村 方人 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (90284588)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | coating / drying / phase separation / photo curing |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、溶媒乾燥の影響が無視できる密閉系内における光製膜実験を行い、液体薄膜の反応硬化過程における拡散現象について検討した。反応性モノマーとしてアクリル酸を末端基に持つ重量平均分子量1000-1500のアクリルモノマー(Aronix M9050, 東亜合成)を、光重合開始剤としてphenylbis(2,4,6-trimethyl bensoyl-)phosphine oxide (Irg819, BASF)を、重合物に対して非相溶で且つ光反応には直接関与しない揮発性溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)をそれぞれ用いて、光反応性溶液を調製した。この溶液をZnSeプリズム上へ初期厚み200~1000ミクロンとなるよう塗布し、塗布膜-プリズム界面の深さ数ミクロンの範囲における液体組成を、Attenuated Total Reflection (ATR)-FTIR法により測定した。まず濃度が既知の溶液に対して吸光度と濃度の間の検量線を作成したのち、光照射前後の赤外吸収スペクトルを測定することで、塗布膜底面における溶媒濃度の時間変化を追跡した。また得られたスペクトルから同一反応時刻におけるモノマー反応率を算出した。その結果、スピノーダル分解による共連結型の相分離構造が発現する組成では、光照射により溶媒濃度は増加し極大値を示したのち、緩やかに減少して光照射前の水準まで低下するのに対して、核生成による海島型の相分離構造が発現する組成では、溶媒濃度は光照射と共に急激に増加しその後は減衰することなく一定値を保つことが明らかとなった。この光照射前後の溶媒濃度差を反応率に対して整理したところ、両者の関係は、スピノーダル分解と核生成の2つの相構造が発現する場合について、それぞれ一本の曲線で表されることがわかった。これは、塗布膜内の溶媒拡散流束が相構造によって決定されることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
溶媒乾燥の影響が無視できる密閉系内における光製膜において、実時間赤外吸収スペクトル測定より、塗布膜-プリズム界面近傍の深さ数ミクロンの範囲における溶媒濃度の時間変化を追跡することに成功した。同一初期組成の溶液に異なる強度の紫外線を照射することで、スピノーダル分解と核生成の2つの相構造を有する高分子フィルムの製膜が可能であることを、静的光散乱実験より実証した。さらにこれら2種類の相構造が発現する場合について、光照射前後における溶媒濃度の変化量が、それぞれ反応率に対して互いに異なる一本の曲線で表されるとの新しい知見を得た。この結果は、任意の組成および光照射条件におけるモノマー反応率が既知であれば、これらの曲線から溶媒拡散量の予測が可能となることを示しており、学術的にも産業的にも価値がある。 さらに、溶媒に対して相溶な重合物が生じるような系を別途選び、溶媒濃度の時間変化を同様に追跡したところ、反応率が同一であっても光照射前後の溶媒濃度変化量は光強度に強く依存することが明らかとなった。この結果は、局所反応率の測定値から膜全体の溶媒拡散挙動を推定することは難しく、膜内の厚み方向における成分・光強度・反応率分布を正確に求めることの重要性を示唆するものである。今後実施予定の数値モデリングにおいては、この実験結果を再現できるかが、そのモデルの妥当性を評価する指標となることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までに開発した光成膜過程の評価手法を、溶媒乾燥が進行する場合へ拡張する。まず令和2年度に導入した卓上電子顕微鏡を用いて、溶媒乾燥後のサンプルの断面観察を行い、画像解析を活用して光照射方向の相構造分布に関する詳細な情報を得る。前年度までの結果から、溶媒乾燥が無視できる条件下では、スピノーダル分解による共連結型の相分離構造が発現する組成と、核生成による海島型の相分離構造が発現する組成とで、光照射後の溶媒濃度拡散挙動が定性的に異なることが明らかとなっているが、乾燥が進行する非平衡場においてもこの挙動の相違が同様に現れるのか、さらにその挙動の違いは前述の光照射方向における相構造分布で説明できるのかを、それぞれ検討する。 更に、乾燥挙動解析の基礎となる乾燥特性曲線を得るために、既保有の精密電子天秤を用いて、乾燥に伴う液体薄膜の質量減少を精度±1mgで計測する。異なる乾燥時刻において光照射実験を行い、乾燥後に得られる相構造の相違を系統的に調査する。上述の電子顕微鏡観察を同時に行うことで、厚み方向に階層構造を有する多孔質ポリマー薄膜が形成される条件を探索し、その階層構造の形成過程を説明可能な仮説を提案する。
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