2021 Fiscal Year Annual Research Report
オルガネラを標的とするナノヒーターの創製とガン温熱療法の深化
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20H02538
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
井藤 彰 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (60345915)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡部 弘基 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (20455398)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 温熱療法 / 磁性ナノ粒子 / ミトコンドリア / がん治療 / ドラッグデリバリーシステム |
Outline of Annual Research Achievements |
がん温熱療法は腫瘍組織を43℃以上に加温し細胞死を誘導するがん治療法であり、交流磁場照射による磁性ナノ粒子の発熱を利用したがん温熱療法が盛んに研究されている。しかし、磁性ナノ粒子を直接注射できる固形腫瘍は少なく、血中投与で腫瘍全体を43℃以上に加温するのは難しい。そのため、少ない腫瘍送達量で効率的に細胞死を誘導する磁性ナノ粒子の開発が求められている。細胞内小器官の1つであるミトコンドリアは、熱の刺激に敏感で容易に細胞死を誘導する。したがって、磁性ナノ粒子へのミトコンドリア指向性付与により、高い温熱治療効果が見込まれる。本研究では、高い親水性と細胞親和性を有するMPCポリマーとミトコンドリア指向性が知られているTPPを利用することで、細胞親和性とミトコンドリア指向性を兼ね備えた機能性磁性ナノ粒子を創製し、その温熱治療効果を検討した。FT-IR測定と熱重量測定により、MESユニット中のカルボキシル基を介して、粒子表面にMPCポリマーが結合したことを確認した。ポリマー被覆マグネタイトナノ粒子は、水溶液中で高い分散性を示し、交流磁場照射下で良い発熱特性を有していた。CT26細胞にマグネタイトナノ粒子を添加し、24時間培養したのちに細胞生存率を測定したところ、細胞傷害性を示さなかった。次いで、ポリマー被覆マグネタイトを添加した細胞に交流磁場を照射し、加温した後の細胞生存率を測定したところ、TPPユニットを持たない磁性ナノ粒子を添加した系と比較して、TPPユニットを有する磁性ナノ粒子を添加した系において有意に細胞生存率の低下がみられた。この結果は、TPPユニットの存在によりマグネタイトがミトコンドリアに蓄積し発熱することで、より高い温熱治療効果が実現したことを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ミトコンドリア指向性マグネタイトナノ粒子がin vitroにおいて有意に高い殺細胞効果を示したのは、本研究の仮説を裏付けるものであり、順調に研究が進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までに、高い生体親和性と分散安定性を有し、交流磁場照射下で発熱するポリマー被覆マグネタイトを合成することが出来た。ミトコンドリア指向性マグネタイトナノ粒子が実現する細胞内におけるミトコンドリア局所加温が、がん温熱療法において有効なアプローチであることが期待される結果が得られた。今後、分担研究者の東京大学岡部弘基助教らが開発した蛍光温度プローブを用いた細胞内温度測定によるミトコンドリア発熱の実証と、担癌マウスを用いた腫瘍治療実験を行っていくことで、ミトコンドリア指向性マグネタイトナノ粒子ががんの急所を攻撃する強力な「ナノヒーター」となることを実証し、がん温熱療法の深化を図る。蛍光温度プローブの測定に関しては、これまでに実績のある金ナノ粒子を用いた近赤外レーザー照射下での温度計測を並行して行い、磁性ナノ粒子の発熱と比較して検証する。また、ミトコンドリア特異的な蛍光色素を用いた検討と共に、透過型電子顕微鏡観察で、マグネタイトナノ粒子のミトコンドリア集積性を実証する。さらに、腫瘍への直接投与に加えて、マウスの尾静脈からの血中投与によるドラッグデリバリーシステムを行い、磁場照射による温熱療法後の腫瘍サイズを経時的に測定することで治療効果を調べる。結果をフィードバックしながらナノヒーターの調製(パラメーターとして、磁性ナノ粒子のサイズ・細胞親和性ポリマーであるMPCの固定化量・ミトコンドリア標的分子であるTPPの結合量を変えて検討していく)を行うことで、抗腫瘍効果を最大限発揮するように、プロトコールの最適化を行っていく。
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Research Products
(2 results)