2020 Fiscal Year Annual Research Report
Single-Molecule Imaging of Structural Dynamics of a Polymer Chain and Interactions between Polymer Chains
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20H02546
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
篠原 健一 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (10292244)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ナノマシン / ポリマー / 1分子イメージング / 高速AFM / 人工生命機能 / キラルらせん / バイアスブラウン運動 / 分子モーター |
Outline of Annual Research Achievements |
高速AFMイメージングは、高分子鎖の動きが直接見える点で極めて有用ではあるが、得られる構造情報はナノメートルスケールであるので、高分子鎖の分子構造から見れば巨視的であり、原子レベルの構造情報ではない。そこで、原子レベルで高分子鎖の動的構造を計算する全原子MD法によれば、本研究における相補的手法と成るので有効である。高分子鎖一本の直接観測と計算の実効的な連携である。本研究では、種々の相互作用動態を可視化した。
【静電相互作用の高速AFMイメージング】アニオン性ポリマー鎖とカチオン性ポリマー鎖には、静電相互作用による引力が働くと考えられるが、それでは、水中室温の条件下で、基板上でゆらぐ両ポリマー鎖一本一本は、互いにどの位の距離から引力を感じ、そして結合するだろうか?本年度では先ず、これを高速AFMイメージングによって直接観測して明らかにした。アニオン性ポリマーにはPAMPSおよびPAMPSナトリウム塩を用い、一方、カチオン性ポリマーにはポリアリルアミン(PAA)およびPAA塩酸塩を採用した。高速AFMで両者を見分ける必要があるので、分子量が大幅に異なるものを用いた。PAMPSのスルホン酸基とPAAのアミド基との間で相互作用が可能であるので、このダイナミクスを解明した結果、PAMPS長鎖一本の末端部にPAA短鎖1分子が結合した複合体が確認された。 【全原子MDによる静電相互作用のin silico観察】上記の現象を理解する目的で、PAMPS長鎖一本の末端部にPAA短鎖1分子が結合した複合体の分子モデルを全原子MD計算した結果、PAAがPAMPSに結合した構造が確認された。
【ナノマシンの一方向性プロセッシブ運動の発見】アニオン性ポリマー鎖とカチオン性ポリマー鎖の間に働く静電相互作用によって形成された複合分子鎖が一方向にマイカ基板上をブラウン運動する現象を発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記研究実績の概要に記したとおり、「ナノマシンの一方向性プロセッシブ運動の発見」は当初の計画以上の成果である。第70回高分子学会年次大会(2021年5月)で発表する。 ポリマー観測仕様の高速AFMイメージングによって、アニオン性ポリマーPAMPS[Poly(2-acrylamido-2-methyl-1-propanesulfonic acid)]の長鎖(Mw:200万)とカチオン性ポリマーPAA・HCl[Poly(allylamine hydrochloride)]の短鎖(Mw:15,000)をマイカ基板上30 mM KCl水溶液中で観測した。 【それぞれのポリマー鎖のAFMイメージング】PAA・HClは、玉状に観測され、さらにブラウン運動によって、マイカ基板との吸着と解離を繰り返しながらランダムに回転運動や並進運動した。一方、PAMPSは紐状に観測され、さらにマイカ基板に吸着しやすく、一度吸着したらほとんど解離することはなかった。
【複合分子鎖のAFMイメージング】PAA・HClとPAMPSからなる複合分子鎖が一方向に這行運動した。複合分子鎖構造と溶媒分子の熱ゆらぎによって一方向性が生み出されたものと考えた。ブラウン運動は本来、ランダムに熱運動している溶媒分子の衝突によって引き起こされるため一方向性は生まれない。しかし、本研究で発見した這行運動は、長鎖PAMPSによる溶媒流の発生と、イオン性複合分子鎖の非対称性構造[PAMPS鎖(高さ1.3 nmの紐状構造体)の左側に偏った位置にPAA・HClが結合した構造(高さ13 nm)]によって、一方向性が発現したと示唆される。 本研究で発見した熱ゆらぎから一方向性の運動を取り出す原理は、将来、ナノスケールで目的の場所に物質を輸送することができるナノマシンの開発につながる。上記成果は当初の計画以上に進展したものである。
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Strategy for Future Research Activity |
分子間相互作用には、ファンデルワールス相互作用、静電相互作用、水素結合による相互作用、水中における疎水性相互作用などがある。本研究では、これらの相互作用がポリマーの分子内(鎖中)および分子間(鎖間)でどう働き、どのような構造とダイナミクスが観測されるかを明らかにする。
例えば、らせん構造を有していれば、分子鎖表面に周期的な凹凸構造ができるので、鎖表面においてvdW相互作用で分子咬合(噛合い)が可能である。ここを足場として次の状態へ遷移するという運動を制御できれば(方向の制御は次の段階として)、分子モーターの基本的原理となる。全原子MDによるin silico観察と連携させてこの機構を解明する。
またイオン性ポリマーにおいては、アニオン性ポリマー鎖とカチオン性ポリマー鎖の相互作用動態を高速AFMイメージングおよび動態解析することで、静電相互作用のダイナミクスを解明する。 そして、「ナノマシンの一方向性プロセッシブ運動の発見」に関する成果の考察を深め、「なぜ一方向性が生み出されるのか?という問いに分子運動論的に答えたい。
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