2021 Fiscal Year Annual Research Report
半導体量子ドットナノ秩序構造体の創成と新規光機能の解明
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20H02549
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
金 大貴 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (00295685)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渋田 昌弘 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (70596684)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 半導体量子ドット / ナノ秩序構造体 / フェムト秒超高速分光 / 水熱合成法 / Layer-by-Layer法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、半導体量子ドット (QD) がナノスケールで秩序配列し高次構造体を形成することにより新たに発現する光機能を見出すとともに、その起源を超高速光励起ダイナミクスの視点から解明し、機能をさらに高度化する指針を得ることを目的としている。 QD秩序構造体における発光励起スペクトルの受光エネルギー依存性の実験結果から、QD間の結合電子状態であるミニバンドが形成されていることを明らかにした。さらに、一、二、及び三次元的な量子共鳴が生じているCdTe QD秩序構造体の光吸収、発光スペクトルと発光減衰プロファイルの温度依存性を系統的に調べ、温度上昇とともにストークスシフトが小さくなること、低温ではミニバンドの低エネルギー側に形成される弱局在状態が発光過程に寄与すること、高温になるほどミニバンド端の発光成分が増大することを見出した。さらに、ミニバンド形成に基づく新たな発光モデルを提案するとともに、定量的な解析から、QD秩序構造体の発光メカニズムを明らかにした。 前年度に構築したフェムト秒過渡吸収分光システムにより、QD秩序集積体が示す光励起ダイナミクスの観測に着手した。様々なQDについて系統的な実験データを取得するため、励起光による試料損傷が特に懸念されるCdTe QDを最初の観測対象として、励起光のパワーを最適化する条件検討を行った。この条件検討を進めた結果、当該QD秩序構造体においても高いSN比で再現性の良い分光データを得ることに成功した。QD秩序構造体においては、プローブ波長によって3~5ピコ秒の間で減衰する超高速緩和過程と、数ナノ秒に及ぶ比較的遅い緩和ダイナミクスが観測された。後者はナノ秒時間分解発光スペクトルで得られる蛍光寿命と時間スケールが対応している一方で、前者は本研究で推進した高繰り返し分光システムの構築により初めて得られた情報である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度において、Layer-by-layer (LBL) 法によりCdTe秩序構造体を作製するとともに、QD秩序構造体における量子共鳴の次元を制御することに成功している。これにより、本研究が目指すsub-nmで空間制御されたQD秩序構造体を精密に作製する設計指針が得られた。当該年度において、CdTe QD秩序構造体の定常状態およびナノ秒・ピコ秒領域の光学特性を明らかにすることに成功している。 さらに、高繰り返しフェムト秒過渡吸収分光システムの構築により、分光計測における試料損傷の影響が大きいと懸念されていたCdTe QD秩序集積体の超高速緩和過程を再現性良く観測することが可能となった点は、今後QDの粒径依存性や温度依存性に関するデータを蓄積し、系統的な議論を進めていく上で鍵となる進展である。これにより、量子共鳴の効果がさらに期待されるドープ型QDやコアシェル型QDについても、それらの秩序集積体における超高速光励起ダイナミクスの解明へと展開することが可能であると考えられ、本研究を大きく深化させることが期待できる。よって、本研究計画はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、半導体量子ドット(QD)ナノ秩序構造体の作製と構造・光学特性の評価とフェムト秒超高速分光による光励起ダイナミクスの評価を並行して推進する。これまでに、水熱合成法によるQD合成とLayer-by-Layer (LBL) 法を組み合わせることにより、基板上にQD秩序構造体を作製するだけでなく、秩序構造体における面内および積層方向のQD間距離をsub-nmの高精度で制御する技術を確立した。QDにおいては、量子効果によりスピン一重項-三重項励起子分裂エネルギーが増大した結果、低温ではスピン三重項励起子(ダーク励起子)が、高温ではスピン一重項励起子(ブライト励起子)が発光過程に大きく寄与する。このスピン一重項-三重項励起子分裂エネルギーの大きさはQDサイズだけでなく、物質にも大きく依存する。そこで、CdTe、CdSe 、ZnSeのQDについてナノ秩序構造体を作製し、発光分光法および発光励起分光法に加え、ナノ秒・ピコ秒領域の発光特性とその温度依存性を系統的に調べることにより、QD秩序構造体の発光メカニズムの全容解明を目指す。 さらに、作製したQDナノ秩序構造体の発光特性をより詳細に明らかにするために、現在までに構築、高度化してきたフェムト秒過渡吸収分光システムを改良し、試料の超高速光励起ダイナミクスを真空・極低温環境で観測可能にする。また、本システムで未達成であった光パラメトリック増幅 (OPA)によるフェムト秒波長変換機構を完成させ励起状態を選択した上でその緩和過程やエネルギー移動過程、そしてこれらの温度依存性や粒径依存性を高精度で観測する。得られた結果と、ナノ-ピコ秒領域での時間分解発光分光などのデータとを対応付け、全時間領域での励起-発光プロセスを包括的に理解し、当初の目的である空間制御されたQDナノ秩序構造体が示す量子効果を見極め、制御する研究を完遂する。
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Research Products
(8 results)