2021 Fiscal Year Annual Research Report
2次元磁性体における磁気ゆらぎの電気的検出と高効率スピン変換の開拓
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20H02557
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
新見 康洋 大阪大学, 理学研究科, 教授 (00574617)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スピントロニクス / 原子層磁性体 / ファンデルワールス接合 / スピンゆらぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
原子層磁性体に関する研究が近年急進展している。2次元磁性体は対称性が低いため、バルクには現れない特異な現象が期待できる。特に磁気転移温度近傍の磁気ゆらぎは、バルク磁性体に比べて強いことが知られている。そこで本研究課題では、2次元の強磁性体、三角格子反強磁性体、近藤格子系など、様々な磁気特性をもつ2次元磁性体に、スピン角運動量の流れ「スピン流」を注入することで、磁気転移温度近傍の磁気ゆらぎを、スピン流-電流変換(スピン変換)を介して電気的に検出する。さらにバルクの磁化測定やμSR測定などと比較することで、スピン変換で得られる物理量を解明する。最終的には、磁気ゆらぎを利用した高効率なスピン変換の手法を開拓し、スピン流物理とその応用に新展開をもたらす。 本年度は、新しい原子層反強磁性体(Fe,Co)5GeTe2、S = 1/2量子スピン系が期待されるAg2CoO2薄膜素子の作製、さらにスピン流を用いた原子層らせん磁性体CrNb3S6の表面磁化測定に取り組んだ。(Fe,Co)5GeTe2に関して、一部のFeをCoに置換することで、原子層薄膜でも反強磁性体的な振舞いを示すことを見出した。Ag2CoO2では、スピン輸送測定に向けた薄膜化に成功し、また磁気転移温度(17.5 K)以下で正常ホール抵抗に重畳するホール信号を観測した。CrNb3S6に関しては、面内スピンバルブ素子に薄膜化したらせん磁性体CrNb3S6を組み込んでスピン蓄積を測定した結果、CrNb3S6の表面磁化状態を検出することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、最近報告された新しい原子層反強磁性体(Fe,Co)5GeTe2、及びS = 1/2量子スピン系が期待されるAg2CoO2薄膜素子の開発を行った。(Fe,Co)5GeTe2に関しては反強磁性体的な振舞いが薄膜素子で観測できることを確認し、現在原子層強磁性体Fe5GeTe2と接合させた素子の作製を行っている。これにより、室温でも動作する、原子層スピンバルブ素子の実現が可能となり、達成できればデバイス応用への道も拓ける。また、原子層らせん磁性体CrNb3S6に関しては、昨年のスピンホール効果に続き、らせんのピッチと膜厚の大小関係によって質的に異なるスピン蓄積信号が検出された。この結果から、CrNb3S6の表面磁化構造は、膜厚に大きく依存しており、膜厚がらせんのピッチより短い場合には、表面磁化がピン止めされていること、さらに1ピッチ以上の厚い膜では、ピン止め効果よりもねじれの方が優先されること、らせん磁化全体は50 Oe程度の低磁場で反転できることを明らかにした。得られた結果は当初の予定にはない重要な成果であった。以上の理由から「(1)当初の計画以上に進展している」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の2022年度は、原子層強磁性体Fe5GeTe2と原子層反強磁性体(Fe,Co)5GeTe2を積層させた原子層スピンバルブ素子の原型を作製し、原子層磁性デバイス応用への道筋を付ける予定である。また2021年度までに原子層らせん磁性体CrNb3S6を用いたスピン輸送素子で、スピンゆらぎや表面磁化に関する多くの知見が得られたため、2022年度はすでに薄膜素子開発を行っていた原子層三角格子反強磁性体Ag2CrO2(古典スピンS = 3/2)とAg2CoO2(量子スピンS = 1/2)に対してもスピン輸送測定を行う予定である。これにより、古典スピンと量子スピンでスピンゆらぎにどのような違いが表れるかを調べる。
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