2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20H02598
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山ノ内 路彦 北海道大学, 情報科学研究院, 准教授 (40590899)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 電流誘起磁壁移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ワイル点を有する強磁性体においてワイル点が電流誘起磁壁移動に与える効果を明らかにすることを主目的としている。本年度は、フェルミ準位近傍にワイル点を有する強磁性体SrRuO3において、前年度より広い範囲で温度を変え、ワイル点とフェルミ準位の相対的位置を系統的に変化させた時に電流が磁壁に及ぼす有効磁場がどのように変化するかを詳細に調べることにより、本研究の目的の達成をめざした。その結果、単位電流当たりに誘起される有効磁場は温度に対して2つのピークをもつ特異な温度依存性を示し、かつその大きさは強磁性金属で報告されている値よりも2桁程度大きいことがわかった。これらの結果は従来機構では説明できないため、SrRuO3における電流誘起磁壁移動はこれまでに観測されていない新たな機構に関係していると推察された。そのような中で、最近になって、フェルミ準位近傍にワイル点を有する強磁性体においては、磁壁を横切るように電界を印加すると、ワイル点近傍のワイルフェルミオンによってトポロジカルホールトルクと呼ばれる新規のトルクが磁壁に作用することが理論的に示され、本研究で観測された有効磁場との関連が期待された。実験結果とトポロジカルホールトルクによる有効磁場の理論計算を比較したところ、この有効磁場の特異な温度依存性、及び大きさは、ともにトポロジカルホールトルクで説明できることがわかった。これらの結果から、ワイル点を有する強磁性体においては、ワイルフェルミオンに起因したトポロジカルホールトルクによって、高効率な電流誘起磁壁移動や特異な温度依存性を示す電流誘起磁壁移動が発現すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ワイル点が電流誘起磁壁移動に与える効果を明らかにするため、フェルミ準位近傍にワイル点を有する強磁性体SrRuO3において、広い温度範囲で電流が磁壁に及ぼす有効磁場の温度依存性を詳細に調べた。その結果、有効磁場は温度に対して2つのピークをもつ特異な温度依存性を示すことを明らかにした。この有効磁場の特異な温度依存性の機構を調べるため、最近になって理論的に提案されたワイル点近傍のワイルフェルミオンが磁壁に及ぼすトポロジカルホールトルクと実験結果を比較した。その結果、SrRuO3において観測された有効磁場の温度依存性、及び有効磁場の大きさは、ともにトポロジカルホールトルクに起因した有効磁場の理論計算でよく説明できることが分かった。これらの本年度の研究によって、本研究の主目的であるワイル点が電流誘起磁壁移動に与える効果を明らかにすることができただけでなく、これまでに観測されていなかったトポロジカルホールトルクによる有効磁場を実験的に示すことに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
SrRuO3はフェルミ準位近傍にトポロジカルな電子状態であるワイル点を有するが、トポロジカルな電子状態ではない通常の電子状態もあり、後者が電気伝導を支配している。このような強磁性体においても、ワイルフェルミオンに起因したトポロジカルホールトルクによって高効率な電流誘起磁壁移動が可能であることから、ワイルフェルミオンが電気伝導を支配するワイル強磁性体においては、さらに高効率な電流誘起磁壁移動が期待される。そこで、ワイル点の寄与を反映した特異な異常ホール効果や異常ネルンスト効果を示すワイル強磁性体において、SrRuO3と同様に電流によって磁壁に作用する有効磁場の温度依存性を詳細に調べることにより、ワイルフェルミオンと磁壁移動の関係を明らかにする。
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