2020 Fiscal Year Annual Research Report
原子分解能走査型電子顕微鏡を目指したレーザー定在波による革新的収差補正装置の実現
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20H02629
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
上杉 祐貴 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (60780682)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 電子レンズ / 球面収差補正 / ポンデロモーティブ力 / Kapitza-Dirac効果 / ベクトルビーム |
Outline of Annual Research Achievements |
レーザー(光ビーム)を使った電子ビームの空間変調作用,特にレンズ作用を実現するために,本年度は主に理論的な検討に注力した.本研究の基盤となる物理過程である光と自由電子の誘導非線形相互作用「Kapitza-Dirac効果」は,古典的には電磁波中の自由電子に働くポンデロモーティブ力に対応する.過去のKapitza-Dirac効果およびポンデロモーティブ力による電子変調効果の研究では,レーザーと電子ビームが直交する条件のみが考慮されてきた.電子顕微鏡やその他の電子イメージング技術への応用を目指す上では,電子ビームへの変調作用はビーム軸に対して回転対称であることが望ましい. しかし,単にレーザーと電子ビームを同軸に配置しても空間変調作用は発生しない.これは電子ビームに対して回転対称なポンデロモーティブ力を発生するには軸方向の電場または磁場成分が必要となるからである. この問題を解決するために,軸対称に偏光が分布するベクトルビームと呼ばれるレーザーを,集光角の大きな(高NAの)対物レンズで強く集光し,電子ビーム軸上に軸方向成分の場を発生する手法を考案した.この手法の有効性を検証するために,近軸近似の成り立たない大角度領域のレーザー伝搬を計算するコードと,それによって導いた集光場からポンデロモーティブ力場を計算し,その場中の電子軌道をシミュレートするコードを開発した.これを用いて,集光したベクトルビームが電子ビームに対して凸レンズまたは凹レンズとして作用すること,および凸レンズ作用の場合に球面収差が負になることを示した.上記の結果により特許申請を行い,また論文として内容をまとめた. 上記の課題に並行して,高強度の光場を形成可能なレーザー蓄積共振器の開発に取り組んだ.その結果,複数の光学メーカーの低損失鏡を用いて,それぞれで蓄積増大係数が10万倍以上の共振器を構築することに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画書において発展的課題と捉えていた同軸構成でのKapita-Dirac効果,およびそれを利用した電子レンズ作用の検討が順調に進み,成果を得ることができた.電子レンズ作用のためのシュミュレーションコードを開発したので,今後はこれを利用して実験系の設計を行うことが可能であり,精度の高い装置開発が可能になる.また,計画書では単にドーナツ状の強度分布を有する光ビームがあれば良いと考えていたが,実際には光軸上に軸方向の電場または磁場成分を発生する必要があるなど,本研究課題に関する物理的な考察にも進展があった. 計画書におけるその他の課題についても,レーザー蓄積共振器の開発が順調に進んでいること,また電子顕微鏡の専門家との研究技術交流に進展があり,協力体制の構築が進んでいることから,本研究は順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
開発した計算コードを利用して,実験的検証のための電子ビーム装置およびレーザー光学系の設計を行う.電子銃を収めた小型の真空装置による,電子レンズ作用実証のための実験系の開発と,既存の電子顕微鏡をベースに,レーザー光学系を導入して球面収差補正による分解能向上の実証を試みる系と,2つの可能性について検討を行う.いずれにおいても,ベクトルビームを電子ビームと同軸にアライメントして,その軸上で強く集光するために,真空対応の反射鏡や光学対物レンズの開発が重要になる.これを光学部品メーカーに依頼して作製し,その性能を評価する.
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] Development of self-resonating enhancement cavity operating in single-longitudinal-mode2020
Author(s)
Yuuki Uesugi, Alexander S. Aryshev, Masafumi Fukuda, Tsunehiko Omori, Nobuhiro Terunuma, Junji Urakawa, Tohru Takahashi, Yuya Koshiba, Seiya Otsuka, Masakazu Washio, Yuji Hosaka, and Shunichi Sato
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Journal Title
Conference on Lasers and Electro-Optics
Volume: JW2B.10
Pages: 1-2
DOI
Peer Reviewed
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