2020 Fiscal Year Annual Research Report
Short-pulse high-power operation of photonic crystal surface-emitting lasers introducing refractive index gradation
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20H02655
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井上 卓也 京都大学, 工学研究科, 助教 (70793800)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | フォトニック結晶レーザ / フォトニック結晶 / 短パルス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、フォトニック結晶の2次元共振作用をレーザー発振に利用した面発光型半導体レーザー(フォトニック結晶レーザー:PCSEL)において、屈折率勾配(周波数勾配)の導入という新たな短パルス・高ピーク出力化の手法を提案し、外部増幅器を用いない単一光源から、高ビーム品質を維持しつつ、パルス幅数10ps未満, ピーク出力100W~1kW級の短パルス・高ピーク出力発振を実現することを目指す。初年度である2020年度は、(I)周波数勾配型PCSELの動作特性の解明、(II) 勾配型PCSELの作製手法および周波数勾配の評価手法の開発 の2項目に取り組むとともに、(III) 勾配型PCSELによる短パルス・高出力パルス発振の実証、についても前倒しで検討を開始した。 (I)については、時間領域3次元結合波理論による過渡応答解析を行った結果、フォトニック結晶面内に導入する周波数勾配の大きさと、電流注入領域の外側の周波数変化量の2つを適切に調整することで、発振初期の共振モードの損失が大きくなり、より高ピーク出力なパルス発振が得られることを見出した。また、具体的なデバイス構造の設計を行った結果、直径1mmのデバイスで100W以上のピーク出力が得られることを見出した。(II)については、上記の周波数勾配を実現するために、格子定数を一方向に連続的に変化させたフォトニック結晶の作製条件を確立するとともに、試作したデバイスについて、面内の各領域の自然放出光スペクトルを測定することで、発振周波数の勾配を実験的に評価する手法を確立した。(III)については、試作した直径1mmのデバイスの過渡応答特性をストリークカメラで測定した結果、10 Aの電流注入で断続的な短パルス発振を観測し、周波数勾配の導入という新しい原理での短パルス発振の実証に世界で初めて成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、フォトニック結晶による近接場熱輻射の自在な制御の実現を目指しており、研究項目として、(I) 周波数勾配型PCSELの動作特性の解明、(II)周波数勾配型PCSELの作製手法および周波数勾配の評価手法の開発、(III)勾配型PCSELによる短パルス・高出力パルス発振の実証、(IV) さらなる短パルス・高出力化に向けた、勾配型PCSELのパルス圧縮制御の検討、の4項目を設定している。初年度である2020年度は、項目(I)(II)に中心的に取り組むとともに、項目(III)については、当初の計画を前倒しして検討を開始した。その結果、(I)については、当初の計画通り、周波数勾配PCSELで安定したパルス動作が得られる機構を解明し、100W級のピーク出力が実現可能なデバイスの設計に成功した。(II)については、周波数勾配型PCSELの作製手法および周波数勾配の評価手法を確立し、本項目を計画通り完了することが出来た。さらに、 (III)については、試作した直径1mmのデバイスの過渡応答特性をストリークカメラで測定した結果、10 Aの電流注入で断続的な短パルス発振を観測することに成功した。本成果は、周波数勾配の導入という新しい原理での半導体レーザーの短パルス発振の世界初の実証例と位置付けることが出来、学術的にも将来の実用化に向けても、大変重要な成果であると考えられる。さらに、上記の検討と並行して、本研究提案の基礎技術となる可飽和吸収領域を利用した短パルスPCSELについても、デバイスの作製と評価を進めたところ、同デバイスにおいて20W級のピーク出力を実証することに成功した。この成果は、Nature Photonics誌に論文が掲載され、複数のメディアで報道されるなど、国内外で大きな注目を集めた。 以上により、全体として本研究課題は当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、2020年度は、研究が当初計画以上に進行し、試作した周波数勾配型PCSELにおいて、断続的な短パルス発振を観測することに初期的に成功した。2021年度はこの結果を踏まえ、周波数勾配型PCSELの発振特性の詳細な評価と、さらなる高ピーク出力化に向けたデバイス設計を行う。具体的には、(I)の理論解析について、2020年度に見出した短パルス・高ピーク出力化の指針をもとに、周波数勾配の導入方法やデバイスへの電流注入分布をさらに工夫することで、より高ピーク出力なパルス発振が得られる条件の探索を行う。また、(III)の短パルス・高ピーク出力発振の実証に関しては、2020年度に試作を行った周波数勾配型PCSELについて、遠視野像・近視野像などの発振特性や、パルス幅・ピーク出力・繰返し周波数などの過渡応答特性の詳細な評価を行う。得られた実験結果は、(I)の理論解析結果と比較することで、解析モデルの修正を行い、より高ピーク出力な発振が得られるPCSELの設計へとフィードバックを行う。さらに、2021年度の後半には、周波数勾配型PCSELのさらなる短パルス・高出力化に向けて、項目(IV)のパルス圧縮に関する理論検討を開始する。周波数勾配型PCSELでは、パルス発振前後で発振周波数が高周波数から低周波数にシフトするため、短波長の光ほど遅延時間が大きくなる分散補償媒質を用いてパルス圧縮を行うことが可能になると期待される。具体的には、(I)で設計した勾配型PCSELについて、発振前後における周波数変化量を定量的に解析するとともに、分散補償媒質を透過させた後の出力波形の計算を行うことで、さらなる短パルス・高ピーク出力動作の実現可能性を明らかにする。
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Remarks |
ナノプロセス工学研究室ホームページ(http://www.nano.kuee.kyoto-u.ac.jp/)
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Research Products
(25 results)