2021 Fiscal Year Annual Research Report
表面吸着分子のギャップリノーマリゼーションと分子物性変化の解明
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20H02694
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
加藤 浩之 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (80300862)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 剛司 大阪大学, 理学研究科, 助教 (90432468)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | HOMO-LUMOギャップ / 導電特性 / 光学特性 / 光電子分光 / 走査トンネル顕微/分光法 |
Outline of Annual Research Achievements |
分子デバイスにおいて、分子が求められる物性は導電性や吸光/発光特性であり、分子の最高占有軌道(HOMO)準位および最低非占有軌道(LUMO)準位の正確な情報が欠かせない。分子超薄膜内を電荷が移動するとき、HOMO/LUMOにはそれぞれ正孔/電子が流れるため、電極基板から受ける静電的相互作用が異なり、両軌道間のエネルギー準位差が変化する。これはギャップリノーマリゼーションと呼ばれ議論されてきたが、十分な理解には至っていない。そこで本研究課題では、表面吸着分子におけるHOMO/LUMO準位を基板からの距離の関数として実測すると共に、同一の分子超薄膜に対し導電性や光学特性を計測して、ギャップリノーマリゼーションが及ぼす分子物性への影響を総合的に解明することを目指す。 2021年度は、装置開発として低侵襲な紫外(UV)光源を用いたUPS計測系の設計と製作に注力した。従来のUPS計測では、UV光源として放電管を用いたHe Iα線源が用いられてきたため、試料のダメージを増大させていた。そこで本研究課題では、低い光子エネルギーの水素原子(H) Lymanα線源を用いたUPS測定装置の新規構築を進めている。2020年度に、Lymanα光源の購入を済ませていたが、初期不良や新型コロナ禍による遅延などがあり進捗に遅れがあった。2021年度は、Lymanα線の光学系の設計と製作/改良を進め、およそ遅れを取り戻すことができた。 また、官能基を有するアルカンチオラート単分子膜(SAM)の反応と電荷移動について、放射光を用いたX線吸収実験を行った。これまで、表面に直接吸着している分子については電荷移動が起こり得ることが報告されているが、絶縁層であるアルカン層(厚さ約1nm)が存在する場合の例は限られていた。実験では、反応と共に変化する共鳴準位が観測され、電荷移動が起こりうることを示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、2020年度に引き続き、低侵襲な紫外(UV)光源を用いたUPS装置の開発に注力した。従来の計測では、UV光源としてHe Iα線源(21.22 eV, 波長58 nm)が用いられ、放電発光部から試料までが筒抜けになっており、UV光の他に電子やイオン、ラジカルなどが表面へ照射され、試料のダメージを増大させている。そこで、低い光子エネルギーの水素原子(H) Lymanα線源(10.20 eV, 波長122 nm)を用いたUPS測定装置の構築を進めた。この波長であれば、LiFやMgF2のレンズやフランジ窓を使用することができ、光源と真空槽を完全に分離することが可能である。2020年度に、Lymanα光源の購入を済ませていたが、初期不良や新型コロナ禍による遅延などがあり進捗に遅れがあった。2021年度は、Lymanα線の光学系の設計と製作/改良を進め、およそ遅れを取り戻すことができた。 くわえて、イミダゾールで終端したアルカンチオラート単分子膜(SAM)の化学反応と電荷移動について、放射光を用いたX線吸収実験を行った。これまで、表面に直接吸着している分子については電荷移動が起こり得ることはよく知られていたが、絶縁層であるアルカン層(約1nm)が存在する場合の例は限られていた。実験では、イミダゾールと水素原子の反応で、化学的に安定なイミダゾリウム・カチオンが電荷移動を伴って生成されるか鍵である。測定の結果、化学反応と共に共鳴準位の大きな変化が観測され、電荷移動が示唆される明確な変化を観測することができた。すなわち、基板表面と距離をおく官能基であっても、フェルミ準位近傍の電子準位のエネルギーレベルが化学反応と密接に関係していることが示された。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、まず、Lymanα光源による低侵襲なUPS光源を、既存の光電子分光装置へ導入し、実際の分子膜の電子状態観測に活用することを第一に研究を進める予定である。これによって、従来のHe Iα線源では、結論を導けなかったギャップリノーマリゼーションについて議論を深め、導電特性や光学特性など分子膜物性との関係を明らかにしたいと考えている。 くわえて、2021年度中に試みたイミダゾール官能基の化学反応と電荷移動に関する実験結果はとても興味深く、これまでにない視点の研究に発展する可能性がある。まず、得られている実験結果に対し、我々の考えをサポートする実験を実施し、研究成果を確実なものすると共に、理論計算による分子軌道の詳細の議論も進めていく予定である。これによって、一般性・拡張性のある研究成果として、早期に公表(論文化)できるよう努めたい。 また、2021年度には、超高真空チャンバー内にある分子膜試料の光学吸収を評価する差分反射分光(DRS)の装置立上げにも着手した。DRSは、大気中や溶液中の試料に対しても有効な測定手法であるが、ギャップリノーマリゼーションの当研究課題では、測定環境を揃えた方がより厳密な議論が可能となると考えられる。光電子分光や2光子光電子分光によるHOMO準位やLUMO準位の測定が超高真空内で行われることを考慮すると、同一試料の光学吸収特性の比較も同条件で行うことが理想的である。そこで、真空チャンバー内で測定可能なDRS装置の確立を目指している。2022年度も引き続き装置の立ち上げを進め、本研究課題に活用する予定である。 以上の測定手法の整備や実験をとおして、表面との距離を規定した試料の電子準位と物性特性の両方の高精度測定を可能にし、ギャップリノーマリゼーションと分子物性の相互理解を目指す予定である。
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Research Products
(9 results)