2022 Fiscal Year Annual Research Report
表面吸着分子のギャップリノーマリゼーションと分子物性変化の解明
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20H02694
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
加藤 浩之 大阪大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80300862)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 剛司 大阪大学, 大学院理学研究科, 助教 (90432468)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | HOMO-LUMOギャップ / 導電特性 / 光学特性 / 光電子分光法 / 走査トンネル顕微/分光法 / 差分反射分光法 |
Outline of Annual Research Achievements |
分子デバイスにおいて、分子が求められる物性は導電性や吸光/発光特性であり、分子の最高占有軌道(HOMO)準位および最低非占有軌道(LUMO)準位の正確な情報が欠かせない。分子超薄膜内を電荷が移動するとき、HOMO/LUMOにはそれぞれ正孔/電子が流れるため、電極基板から受ける静電的相互作用が異なり、両軌道間のエネルギー準位差が変化する。これはギャップリノーマリゼーションと呼ばれ議論されてきたが、現在でも十分な理解には至っていない。そこで本研究課題では、表面吸着分子におけるHOMO/LUMO準位を基板からの距離の関数として実測すると共に、分子超薄膜に対し導電性や光学特性を計測して、ギャップリノーマリゼーションが及ぼす分子物性への影響を総合的に解明することに挑戦する。 令和4年度は、差分反射分光(DRS)装置の整備と、官能基を有するアルカンチオラート単分子膜(SAM)の反応と電荷移動に関する研究について、それぞれ進展があった。前者のDRS装置については、光電子分光によるHOMO準位やLUMO準位の測定が超高真空内で行われることを考慮すると、光学吸収特性の測定も真空内で行うことが理想的である。そこで、溶液系のDRS装置とは別に、既存の超高真空装置に組み込み可能なDRS装置の設計し、製作を進めた。一方、後者のイミダゾール官能基の化学反応と電荷移動に関する研究でも進展があった。先のX線吸収分光による実験では、H原子が官能基へ吸着する反応と電荷移動が連動していることを示唆する結果を得ていた。これについて、分子軌道(MO)計算によってその妥当性を吟味したところ、イミダゾール基へのH原子の付加は、ラジカルを生じるものの系全体のエネルギーを安定化すること、ラジカル中の分子軌道のエネルギー準位は不安定で容易に金属基板へ電子を放出してカチオンとして更に安定化することを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、表面吸着分子のギャップリノーマリゼーションと分子物性の関係を解明するために、良く規定された試料に対して電子準位測定と物性測定の双方を行い、総合的な理解につなげることを目的とする。研究では、次の4つの測定対象:(A)HOMO準位、(B)LUMO準位、(C)表面-分子膜導電特性、(D)表面吸着分子吸光特性を、それぞれに適した4種の測定手法:(a)紫外光電子分光(UPS)、(b)2光子光電子(2PPE)分光、(c)走査トンネル顕微分光(STM/STS)、(d)差分反射分光(DRS)で計測し、総合的な理解に挑戦する計画である。 令和4年度は、年度はじめの計画どおり(d)DRS装置の立ち上げを行い進展があった。DRSは、多くの測定環境に適用可能な測定手法である。先の研究では、溶液に接する分子吸着膜に対してDRS測定が出来るように装置を立ち上げていた。これに対し、光電子分光や2光子光電子分光によるHOMO準位やLUMO準位の測定が超高真空内で行われることを考慮すると、同試料の光学吸収特性の比較も同一条件で行うことが理想的であった。そこで、真空チャンバー内で測定可能なDRS装置の設計を進め、既存の超高真空装置に組込めることを確認し、製作を進めた。 くわえて、令和3年度中に見出したイミダゾール官能基の化学反応と電荷移動に関する研究でも進展があった。先のX線吸収分光による実験では、H原子が官能基へ吸着する反応と電荷移動が連動していることを示唆する結果を得ていた。これについて、実験的再現性を確認すると共に、分子軌道(MO)計算によってその妥当性を吟味した。結果として、イミダゾール基へのH原子の付加は、ラジカルを生じるものの系全体のエネルギーを安定化すること、ラジカル中の分子軌道のエネルギー準位は不安定で容易に金属基板へ電子を放出してカチオンとして更に安定化することを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は、本研究課題の最終年度であるので、立ち上げてきた装置の完成を急ぐとともに、本研究で得られた知見を精査して、吸着分子準位のギャップリノーマリゼーションと分子物性の総合的な理解を進める。 本研究課題で重点的に立ち上げてきた測定手法は、低侵襲な紫外(UV)光源を用いたUPS装置と、吸着分子の光学吸収を計測するDRS装置である。いずれの装置も設計と部品の購入を終え、今後は組立てと性能評価、最適化に向けた改良を進めて完成を目指す。 低侵襲なUV光源については、初年度(令和2年度)~令和3年度かけて、Lymanα光源の購入と光学系の設計/発注を終えている。令和4年度は、既存の光電子分光装置への実装を目指したが、担当学生の健康不良があり予定どおりには進まなかった。令和5年度は新たな学生もくわえ作業を加速して完成を目指す。さらに、DRS装置の立上げについても昨年度に引き続き並行して進め、吸着分子準位のギャップリノーマリゼーションと吸着分子の光学吸収の関係解明を目指す。 くわえて、官能基を有するアルカンチオラートSAMの反応と電荷移動についても、研究を発展させたい。これまで、表面に直接吸着している分子については部分電荷の移動が起こり得ることが報告されている。しかしながら、絶縁層であるアルカン層(厚さ約1nm)が存在する場合の例は限られていた。令和4年度のMO計算による解析では、電荷移動を伴う反応もエネルギー的に安定化へ向かう反応としているが、官能基と基板間だけではなく隣接する官能基間の相互作用も影響すると考えられるため、研究を発展させギャップリノーマリゼーションの起源である静電相互作用について、理解を深めたい。 以上の研究をとおして、表面との距離や官能基の電子準位と物性特性の両方の高精度測定を基に、ギャップリノーマリゼーションと分子物性の相互理解を目指す予定である。
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Research Products
(13 results)