2020 Fiscal Year Annual Research Report
Rational Design of Acid-Base Cooperative Chiral Supramolecular Catalysts to Control Multiselective Reactions
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20H02735
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Research Institution | Kobe Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
波多野 学 神戸薬科大学, 薬学部, 教授 (20362270)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 有機合成化学 / 不斉触媒反応 / マルチ選択性 / 酸・塩基複合化学 / 超分子触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
酵素の発現する触媒機能は多彩であり、酵素反応は生体が作り得た最高の分子制御テクノロジーの一つである。精密有機合成において、酵素が完璧に制御するようなマルチ選択性を分子触媒レベルで発現するには、従来の画一的な単一分子触媒の常識を打ち破る必要がある。もちろん従来の単一分子触媒でも、反応と基質の種類によっては十分に高い触媒活性と選択性が発現するため、それらは実用的である。しかし、基質適用範囲が広くて使いやすい反面、特定の基質に対しての完璧な選択性や異常な選択性の発現やユニークな触媒機能は元来期待できない。研究代表者は、こうした「レディメイド型」の従来のキラル単一分子触媒と対極かつ相補的な関係にあるのが、キラル超分子触媒であると考えるに至った。本研究では、様々な不斉触媒反応をより戦略的に展開するために、酸・塩基複合化学を基盤とするキラル超分子触媒を開発している。特に、酸・塩基複合化学に基づいて鍵となる小分子パーツを分子設計し、酸・塩基のフレキシブルな親和的相互作用を駆動源としてこれらの小分子パーツからキラル超分子触媒を創出している。酵素の鍵穴と触媒活性点に相当するナノサイズのキラルキャビティーをin situで作り、従来の単一分子触媒には不向きな複数の分子を包接可能な反応場を提供する。こうした単一分子触媒では成し得ない特異な不斉反応場で反応効率を極め、従来の「合成困難」を「合成可能」にする「テーラーメイド型」のキラル超分子触媒の創製とそれらを用いたマルチ選択的な反応制御を行なっている。具体的な項目としては、研究代表者が蓄積してきた分子技術を駆使して、(1)ブレンステッド酸・ブレンステッド塩基複合触媒、(2)ブレンステッド酸・ルイス酸複合触媒、(3)ブレンステッド酸・ブレンステッド酸複合触媒、(4)ルイス酸・ルイス酸複合触媒、に区分して研究を効率よく実施している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
年度当初に計画した以下の2項目について、当初の計画以上に進展できた。 [ブレンステッド酸・ブレンステッド塩基複合触媒の開発]: 本項目では、研究代表者が独自に開発してきた強い酸性度をもつキラルビスリン酸及びキラルジスルホン酸を含むブレンステッド酸・ブレンステッド塩基複合触媒を開発した。立体効果に加えて活性点近傍の電子的制御を行い、プロトン・ネットワークによるキラルキャビティーを精密設計した。これらの触媒を用いてピロール及びインドール類の不斉アザ-Friedel-Crafts反応を開発し、有機合成上有用な光学活性ピロール及びインドールアルカロイド誘導体を得ることに成功した。触媒の固体担持による活性化と回収再利用にも成功した。さらなる研究発展につなげるための詳細な反応機構も考察した。 [ブレンステッド酸・ルイス酸複合触媒の開発]: リン酸ジエステルはブレンステッド酸であると同時にルイス塩基としても機能する。従って、こうしたリン酸ジエステルに基づくキラルリン酸触媒にルイス酸を直接作用させれば、本来は“かたち”のないプロトン周辺に嵩高い立体効果を与えるとともに、共役構造を介してプロトンを活性化できる。この直接活性化型のキラル超分子リン酸触媒を用いて、キャビティー効果が反応を促進するはずのカルボニルエン環化反応を実施した。カルボニルエン環化反応では、通常はThorpe-Ingold効果の補助が必要で、基質適用範囲が狭い。しかし本研究では、直接活性化型のキラル超分子リン酸触媒のキャビティー効果を発動させ、新しい反応形式の制御により、新規反応生成物を効率的かつ高選択的に得ることに成功した。さらなる成果が見込まれ、次年度への継続が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に引き続き、有機合成化学において従来の単一分子触媒には困難な基質に対してや、反応選択性やレジオ・サイト・立体選択性などを発現するマルチ選択的な反応の制御を目指して、条件に合わせたテーラーメイドな酸・塩基協奏型の機能性触媒を開発する。特に2021年度は、全4項目のうちから、下記の2項目について重点的に実施する予定である。 [ブレンステッド酸・ルイス酸複合触媒の開発]リン酸ジエステルはPOH部位がブレンステッド酸であると同時に、共役構造のP=O部位がルイス塩基として機能する。従って、こうしたリン酸ジエステルに基づくキラルリン酸触媒にルイス酸を直接作用させれば、本来は“かたち”のないプロトン周辺に嵩高い立体効果を与えるとともに、共役構造を介してプロトンを活性化できる。本項目では、特にカルボニル-エン環化反応の開発を継続して行う。直接活性化型のキラル超分子リン酸触媒のキャビティー効果を発動させ、新しい反応形式による反応制御を実現し、対応する新規生成物を効率的かつ高選択的に得ることを目指す。 [ルイス酸・ルイス酸複合触媒の開発]塩基部位を有するキラルホウ素ルイス酸に嵩高いアキラルホウ素ルイス酸を組み合わせる触媒設計を行う。嵩高いボランはそのホウ素原子(酸)とキラルホウ素ルイス酸本体の酸素原子(塩基)と間の動的な配位結合で保たれ、キラルなキャビティーに配座柔軟性を与える。同時に、ボランの強い電子求引性に基づいて、共役結合を介して中心酸部位の触媒活性を増大できる。本項目では、特に高難度物質変換に相当するDiels-Alder反応のマルチ選択性を制御する技術手法を進展させることを目指す。マルチ選択性の制御範囲に「触媒選択性」を加え、さらに独創的な展開を推進し、有機合成化学の新しい次元を切り拓くことを目標にする。
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Research Products
(20 results)