2020 Fiscal Year Annual Research Report
キラルケイ素分子の精密合成法開発と新規生物活性分子創製への展開
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20H02743
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
井川 和宣 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (80401529)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | キラルケイ素分子 / 不斉合成 / 生物活性 / キラルシラオキサン / ナトリウムチャネル |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の研究では生物活性を有するキラルケイ素分子の不斉合成を指向して,生物活性天然物に広く見受けられるキラルオキサンのケイ素アナログ合成に挑戦し,ヒドロキシシラシクロペンテノールの環拡大反応による立体特異的な新手法の開発に成功した.また,ナトリウムチャネルに対して強い結合活性を示すアミノシラシクロペンタンの構造活性相関研究を行った. 1)我々の手法で光学活性体を潤沢に得ることができるキラルシラシクロペンタンを不斉合成素子として活用して,様々な生物活性天然物やピラノースの環骨格として広く見受けられるキラルオキサンのケイ素アナログ合成について検討した.その結果,2-ヒドロキシシラシクロペンタンに対して適切な塩基を作用させることで,目的のキラルシラオキサンが立体特異的に得られることを見出した.本反応は形式的に,炭素から酸素アニオンにケイ素が移動するBrook転位に分類することができる.しかしながら,その反応機構について精査した結果,塩基の選択によっては2-ヒドロキシシラシクロペンタンが開環したシラノールが生じることを,また,そのシラノールが環化してキラルシラオキサンとなることを明らかにした.これらの結果から,本反応は2-ヒドロキシシラシクロペンタンの開環反応と生じたシラノールの閉環反応が段階的に進行していると考えられる. 2)先に我々は,アミノ基を有するキラルシラシクロペンテンがナトリウムチャネルに対する強い結合活性を示すことを明らかにした.その構造活性相関について検討した結果,嵩高いケイ素上の置換基(Ph基とtBu基)を入れ替えたエピマーも有意な活性を示すことが明らかになった.このことから,ナトリウムチャネルの結合部位に,より大きな疎水性基を受容する空間が存在することが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度の研究によって,キラルシラシクロペンタンの立体特異的な開環反応と,それにより得られるシラノールの閉環によってキラルシラオキサンの効率的な不斉合成法を確立した.これらの反応を応用することで,キラルオキサン骨格を有する生物活性天然物のケイ素アナログやピラノース型のシラ糖の合成に展開することが可能となった.また,ナトリウムチャネルに対する結合活性を示すアミノシラシクロペンタンの構造活性相関研究によって,今後の検討指針が示されたことから,より高い活性を示す分子の合成や,それらの活性に及ぼすケイ素原子の効果を明らかにできるものと期待される.これらの進捗状況から鑑みて,本研究は概ね順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
シラ糖やシラオキサン骨格を有する生物活性天然物のケイ素アナログ合成については,キラルシラシクロペンタンを不斉合成素子として用いる手法によって引き続き検討する.また,ナトリウムチャネルに対する結合活性を示すアミノシラシクロペンタンについては,ケイ素上の置換基と立体化学がその活性に及ぼす効果についてより詳細に検討する.また,生細胞中での活性や生体内での代謝に及ぼすケイ素の効果について検討する.さらに,最近,我々が開発したアルコキシビニルシランのオゾン酸化を応用して,キラルαアミノ酸のケイ素アナログ合成などに展開する計画である.これら,キラルケイ素分子の立体選択的な変換反応の開発と並行して,新たなキラルケイ素不斉合成素子を設計し,そのエナンチオ選択的な不斉合成法の開発についても取り組む計画である.
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