2021 Fiscal Year Annual Research Report
過渡円二色測定の高精度化による過渡状態分子のキラリティ検出の深化
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20H02806
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
荒木 保幸 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (80361179)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 円二色性 / キラリティ / 励起三重項状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
光励起状態における円二色スペクトルは実測例が極めて少なく、観測すること,そしてその解釈を行うことは学術的な観点から重要であると考えられる。さらに,スペクトル解析から得られる光励起状態のキラリティの知見は円偏光を直接発する EL 素子開発へ応用展開できると期待できる。 申請者はこれまで過渡円二色測定手法を開発し,ヘリセンの光励起三重項状態における過渡円二色スペクトル測定に成功したが,一方で , より簡便に精度良く過渡円二色スペクトル測定を行う手法を確立することで,本手法をもって広く科学の発展に寄与することに繋がると考えるに至った。 本申請では,これまでの手法の問題点を克服する過渡円二色測定を新たに考案する。本申請により,過渡円二色スペクトル測定がより容易な研究手法となり,広く科学者に利用されるツールとなることによって,将来的に過渡的なキラリティをキーワドとした学際的な研究を加速するトリガとなることが期待できる。今年度は,これまで電子励起状態生成に使用してきたナノ秒パルスレーザーを出力が安定したピコ秒パルスレーザーに置き換え,その測定の安定化度合いを見極めることで,精度良く過渡円二色スペクトル測定を行う手段の確立を試みた。既存装置の改良はほぼ完了しデータの取得を試みたところ,[9]ヘリセンの励起三重項状態の円二色測定においてこれまでと同様の結果を得ることが出来たが,飛躍的なシグナルノイズ比の向上は現段階では見込めていない。現在のところサンプルの光安定性に問題があり,サンプルの劣化が激しいために精度良く過渡円二色スペクトル測定を行うに至っていないと考察しているが,自年度も追加実験を行うこととする。サンプルの劣化は,用いるパルスレーザーのエネルギーと,集光度合いに大きく依存するため,これらのパラメータの最適化を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者がすでに構築している時間分解円二色測定装置の概略のパルスレーザーを LD 励起固体レーザーに変更し,励起光源安定化に伴うシグナルーノイズ比の改善効果を確認する。また,同時並行で,励起光強度変調を用いた過渡円二色測定手法の構築を行う。 この点において,装置の改良は予定通り完了している。また,予備的測定は終了し,LD励起個体レーザーを用いた場合,従来のパルスレーザーと同等のシグナルーノイズ比であるデータの取得には成功している。しかしながら,2022年3月16日の地震によりLD励起個体レーザーに不具合が生じ,追加実験が不可能となった。レーザー不具合を次年度早々に回復させ,本年度予定の実験とともに,2022年に実施予定であった計画を完了させる予定である。総合的に見て今年度の研究推進は概ね順調に推移していると考えられる。 また,本申請の一つの課題である,連続光を用いた光励起による過渡円二色測定であるが,モニター光と励起光の重なりを最適化することが,これまで以上に重要になると考えられる。励起光との重なりを最適化するには,よりコリメートしやすく空間的に狭い領域に集光可能な光源をモニタ光として導入することが望ましい。そこで,本申請ではモニタ光として,スーパーコンティニュアム白色光源を使用して,十分に集光したモニタ光と励起光の重なりを取ることで,上記問題を克服することを予定していた。スーパーコンティニュアム光の導入は完了したが,励起光との重なりの最適化にさらなる実験的な改良が必要である。現在,励起光,およびスーパーコンティニュアム光を平行光束としたのち,光学顕微鏡用の対物レンズでサンプルに照射することで問題解決を行う計画を立て必要な機材は準備した。次年度にて実験を遂行する。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は,現在までの研究計画で残った課題を検討するとともに,過渡円二色測定装置を用い、[6]ヘリセンの励起三重項の過渡円二色スペクトル測定を行い,本申請で見込んだシグナルーノイズ比の改善を確認する。量子化学計算によるスペクトルシミュレーションを行い、そのスペクトルとヘリセン類の励起三重項状態の電子構造の解析を行う。[6]ヘリセンによる実証終了後,サイズの大きなヘリセン分子の励起三重項における過渡円二色スペクトル測定を行い,その結果を量子化学計算によるスペクトルシミュレーションと比較する。 [6]ヘリセンに比較し、 [7],[8]および[9]ヘリセンにおいては、励起三重項状態において,近赤外領域に明瞭な光学遷移が現れる。基底状態のヘリセンと同様に,励起状態のヘリセンにおいても,この近赤外領域の吸収に対応した円二色スペクトルが測定されるかどうかを検討する。 また,ミオグロビン中のヘムに結合した一酸化炭素の光解離ー再結合過程の過渡円二色測定から検討する。ミオグロビンに一酸化炭素が結合した場合,ミオグロビン中のヘムの光吸収に明確な変化が生じる。ミオグロビン中のヘムと一酸化炭素の錯体を光励起すると過渡的に一酸化炭素が脱離し,ヘムの光吸収が変化することが知られている。この一酸化炭素の脱離ー再結合プロセスは過渡吸収法により詳細に検討することが可能であるが,本申請で構築した過渡円二色スペクトルでも検討可能であるかどうかを見極めることで,本申請で構築したシステムの応用性を示すことが可能である。 過渡円二色スペクトル測定は基本申請者が測定を行う予定であるが、申請者が所属する研究室の大学院生にサポートを依頼する予定である。また、ヘリセンはすでにストックとして所持しているが、本申請期間内においても既報に基づき合成する。合成には申請者が所属する研究室の大学院生のサポートを依頼する。
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