2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20H02836
|
Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
中村 暢文 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60313293)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 発電装置 / イオン液体 / 下限臨界溶解温度 / 再生可能エネルギー / 熱電変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
塩濃度差によって生じるエントロピーの差を利用して発電を行う混合エントロピー電池(MEB)と呼ばれる発電方法が報告されている。当初は、塩濃度差を生じさせる方法として汽水域付近の海水と川水を利用することが提案されていた。海水や川水を利用する場合は開いた系となり、大きな設備を要してしまうことや発電場所が限定されてしまうといった課題があった。そこで、我々は水と混合すると冷却により相溶し、昇温により相分離する下限臨界溶解温度(LCST)型相挙動を示すイオン液体(IL)に注目した。本年度は、このIL水溶液と塩水溶液との間を逆浸透(RO)膜で仕切り、相変化により浸透圧を制御することで塩水溶液の水量の増減によって塩濃度差を生み出し発電することを試みた。これにより、小さな系で場所を選ばずに発電することが可能となる。またLCST型相転移挙動はわずかな温度変化で繰り返し起こるため、昼夜の温度差などを利用することで外部から人工的にエネルギーを加えずに発電することが期待できる。まずは、相変化によりRO膜を介した水の移動が生じるか調べた。IL水溶液と塩水溶液をRO 膜で仕切り、一定時間経過後に移動した水量を算出することで評価した。その結果、低濃度の塩水溶液から相溶時のIL水溶液への水の移動は少量であった。これは相溶時にIL分子同士が凝集し水溶液中の粒子数が減少しているためであると考えられる。一方で、相分離時の希薄層から高濃度の塩水溶液への水の移動は、先程と比較して多量であった。したがって、相変化を示しながらも分子同士の凝集を抑制するような溶液の設計が必要であることが示唆された。さらに、MEBの獲得電力を大きくすることを目的とし、カチオンとしてLi+を含み、且つLCST型相転移挙動を示すILの作製を行った。作製したILを利用してMEBを作製し、電力密度の評価を行い、獲得電力密度の向上に成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度、LCST型相挙動を示すイオン液体と水との混合溶液にNaClなどの無機塩を溶かす電解液を用いたMEBセルの作製に成功した。しかしながら、負極についてイオン液体によると考えられる腐食のような現象が見られたため、まずはイオン液体を逆浸透膜で隔てたセルを設計して、イオン液体の負極への影響を除くことを考えた。実際に負極への影響を除くことはできたものの、イオン液体の凝集によると思われる出力の低下があったため、さらなる課題も出てきた。また、イオン液体そのものにLiイオンを含むイオン液体の作製に挑戦した。一般的に、イオン液体のほとんどが一価のカチオンとアニオンから形成されており、二価以上のイオンからイオン液体を合成した例はほとんど知られていない。価数の増加に伴って強くなる静電的相互作用のため、多価イオンから構成される塩種は室温において液体になりにくいと推定されるからである。しかし、多価アニオンを用いることで、イオン液体形成に有効な有機カチオンと共に目的キャリアイオンを構成イオン種として導入できることが考えられる。我々はアニオンを二価のものを使用し、1 つ目のカチオンをLi+とし、さらに 2 つ目のカチオンの疎水性を調整することで、LCST 型相転移挙動を示すLi+イオン液体を作製することができる可能性があると考え、二価化アニオン、一価有機カチオンの組み合わせを様々検討した。最終的に、二価アニオンとしてフタル酸イオン、有機カチオンとしてテトラアルキルフォスフォニウムを用いてLCST 型相転移挙動を示すLi+イオンを含むイオン液体を作製することに成功した。これは、含まれる無機イオンの濃度が相転移の前後で大きく変化する系になるため、MEBの高出力化が期待できる電解質系となる。実際に、この新しい電解質系で電池を構築してこれまでで最も高い出力を得ることに成功した。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和3年度の検討により、イオン液体を逆浸透膜で隔てたセルにより、イオン液体の負極への影響を除くことができた。しかしながら、イオン液体の凝集によると思われる出力の低下があった。この点の改良のため、親水性度の高い有機塩を適量添加することによって、IL の親水性度を細かに調整し、凝集を抑制することを試みる。また、Liイオンを構成イオンとして持つ、LCSTを示す、新しいイオン液体lithium-tetrabutylphosphonium phthalate (Li[P4444][PA])を見出した。このイオン液体を用いた水-イオン液体混合溶液に、アニオンに塩化物イオンを持つNaClを溶解させたものを電解質とし、正極にLiFePO4/FePO4、負極にAg/AgClを用いて、LCST挙動を利用した混合エントロピー電池を作製し電池としての性能を詳細に評価する。また、アニオンの効果を見るためにKClを溶解させたものについても検討を行う。 具体的には、Li[P4444][PA]を用いたイオン液体―水混合系について、相転移温度や相転移の前後でのLi+イオンとCl-イオンの活量変化について調べる。様々な塩添加の効果、水との混合比の効果を調べる。 電極の表面積を上げるため、カーボンナノチューブやカーボンパウダー等を固定化した様々な多孔質の炭素電極を作製し、電気化学的に表面積を評価する。これらの炭素電極上にLiFePO4/FePO4のスラリーを塗布した後、焼成する。 この電解質系を用いた場合のセルの形状をデザインし、まずは電池出力を評価する。どのような形状のセルにし、電極の配置をどのようにするかを、実際に出力特性などを調べながら検討し、問題点の洗い出しを行い、改良方法について見当を付ける。さらに、電池サイズを極力小さくするための電極の配置法などについても検討する。
|
Remarks |
"LCST型相転移挙動を示すイオン液体の利用;IL-MEBを中心に",中村暢文,イオン液体研究会サーキュラー,第17号,2021
|
Research Products
(10 results)