2020 Fiscal Year Annual Research Report
Expansion mechanism of the potential window in water-nonaqueous mixed solvent-based ultra-concentrated electrolyte solution
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20H02843
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
牧 秀志 神戸大学, 環境保全推進センター, 准教授 (30283873)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 定量NMR / 溶媒和 / イオンペア / イオン対 / 活量 / 電位窓 / 蓄電池 / リチウムイオン電池 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は経験的・現象論的なアプローチを避けるため、分子論的相互作用および溶媒の熱力学的・物理化学的物性に比較的大きな影響をもたらすと考えられる高濃度リチウム塩水溶液をモデル系として、測定が簡便なレーザーラマン分光分析、定量1H NMRの観測を行い、イオン間相互作用と水和構造に及ぼすアニオン種の影響を評価した。 定量1H NMRによるH2O検出量は理論存在量よりも大幅に低下した。その検出低下率は第一水和圏の水和水の量に相当し、水和圏に束縛される水分子の運動性が制限され1H NMRでは検出できないことが示唆された。一方でH2O検出率は電解質濃度の変化に対して複雑に変化した。希薄な電解質濃度領域(2mol/L以下)ではH2O検出率は急激に減少するが、2および6mol/Lを境にその減少は緩やかとなった。これは電解質濃度が溶媒分離イオン対(SSIP)や接触イオン対(CIP)が形成し始めるためであることが定量的に明らかとなった。これら各種イオン対が形成し始める濃度領域においては、1H NMRケミカルシフトや緩和時間も不連続な変化を示した。この結果は、溶媒を対象とする定量NMRによってイオン間相互作用の観測が可能であることを示しており、重要な成果である。 ハロゲン化物水溶液では、SSIP、CIPの生成が確認される。オキソ酸塩水溶液では、疎水性の高いLiClO4、Li2SO4水溶液の場合はSSIP、CIPともに生成しておらず、疎水性が比較的高くないLiNO3水溶液の場合はSSIPの生成のみ確認された。また、また構造破壊性の高い過塩素酸イオンの存在下では、1H NMR緩和時間や水の自己拡散係数の変化がみられず、濃度の増加によって溶液中の水分子の運動性が損なわれないことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
水の電位窓および電気分解時の水素・酸素発生反応の過電圧に大きな影響を与えると考えられる超濃厚電解質溶液における特異的な分子論的相互作用のうち、イオンペア生成挙動や選択的溶媒和について「溶媒を対象とする定量NMR法」を適用して定量的に評価可能であることを見出した。この評価方法はNMRの特長を生かして極めて多様な溶媒系や固液共存系にも展開可能であり、世界初の重要な成果である。 また幸運にも、導入したベンチトップ型NMR装置にオプションで搭載可能なパルス磁場勾配ユニットが上市され、次年度の研究経費の前倒し申請によってこれをいち早く導入し、イオン対生成や水素結合ネットワークが溶媒分子のダイナミクスに及ぼす影響を早期に観測する体制を構築することが出来た。次年度以降の研究進捗の加速にも資すると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、(1)非水溶媒の添加による分子論的相互作用および溶媒の熱力学的・物理化学的物性への影響を定量的に解明し、(2)それらが水素・酸素発生反応の過電圧を通じた水の電位窓に最終的に及ぼす影響の定量的評価を行う。具体的には、水溶液系および水-非水混合溶媒系の超濃厚電解質溶液での特異的な分子論的相互作用、すなわち①溶媒和構造、②溶媒の水素結合ネットワーク、③イオンペア生成挙動が、水の熱力学的・物理化学的物性(特に水の活量)に及ぼす影響の定量的評価を行う。上記の評価には、「溶媒を対象とする定量NMR」による選択的溶媒和やイオンペア生成挙動の定量観測も取入れ、特にイオンペア生成量の定量化や標準生成エンタルピーの決定を実現する。 電解液試料は、添加する非水溶媒の種類や混合割合、および電解質の種類や濃度が異なる多くの種類を対象とする。経験的・現象論的なアプローチを避けるため、分子論的相互作用および溶媒の熱力学的・物理化学的物性に比較的大きな影響をもたらすと考えられる特定の非水溶媒と電解質をモデル系として、定量1H NMR、1H NMR緩和時間、パルス磁場勾配による自己拡散係数の観測を行う。非水溶媒は既存のリチウムイオン電池用有機電解液で水に可溶である炭酸エチレン、1,2-ジメトキシエタンに加え、水に可溶で既知の溶液化学的知見の多いアセトニトリルを用い、電解質は溶解度が高くイオンペア生成能の高いLiCl、LiNO3、LITFSIを用いる。研究の進展に伴って水の電位窓を一層拡張させる可能性のある電解質を追加する予定である。
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Research Products
(2 results)