2021 Fiscal Year Annual Research Report
ひずみとゆるみによる核酸-タンパク質複合体形成の精密制御
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20H02857
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
正木 慶昭 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (00578544)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 核酸化学 / 核酸医薬 / アンチセンス核酸 / RNase H |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、核酸-タンパク質複合体形成を化学修飾により制御する方法論を構築するために、特に核酸糖部構造に着目して研究を展開している。モデルの系として、核酸医薬品で汎用されるRNase H依存型アンチセンス核酸に着目し、RNase HとDNA/RNA二重鎖が形成する複合体の制御を行なっている。この系は、再構成系での評価が比較的容易であるという点、および制御することにより核酸医薬品の安全性を向上させることが期待できるという二つの観点から用いている。 これまで複合体の構造の分子動力学計算から推定された糖部構造のゆらぎに着目し、これまでビシクロ[3.2.0]ヘプタンおよびビシクロ[3.3.0]オクタン骨格をもつヌクレオシド誘導体を合成し、それぞれの性質を明らかにした。その結果、複合体形成位置の大部分は、計算で予測される糖部構造の影響を強く受けており、糖部構造の固定化での制御が可能であることが見出された。その一方で、複合体の端にあたる領域では、糖部構造だけでは複合体形成の阻害はできず、立体障害の導入により精密制御が可能になると期待された。これらの知見からビシクロ[3.2.0]ヘプタン骨格を基本とし、置換基を導入する合成経路の検討を行った。ビシクロ[3.2.0]ヘプタン骨格は4員環を含む構造であり、環化反応によるひずみが反応効率に大きく影響する。無置換のシクロ[3.2.0]ヘプタン骨格の合成した経路では、置換基による影響で目的の環化体を得ることができなかったため、新たな合成経路の開拓を行った。その結果、シクロチミジン形成を経由しない合成経路の開発に成功した。この合成経路を用いて、置換基導入されたシクロ[3.2.0]ヘプタン骨格を有するチミジン誘導体を合成し、その効果を評価していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までの成果で得られた知見をもとに、ビシクロ[3.2.0]ヘプタン骨格を持つヌクレオシド誘導体に置換基を導入する合成経路の開発を行った。その結果、当初の予定の通り、合成において重要な中間体となるビシクロ[3.2.0]ヘプタン骨格を持つヌクレオシド誘導体の合成に成功しており、またゆるみをもつ分子の合成も順調に進展している。 当初、合成経路として無置換のビシクロ[3.2.0]ヘプタン骨格を持つヌクレオシド誘導体の合成と同様に、シクロチミジン形成、開環に伴うアラビノース誘導体形成を経てビシクロ環化を行う経路の検討を行った。その結果、予期せぬことにシクロチミジン形成の前に、3´水酸基の保護基として導入してあるベンジル基の脱離を伴う副生成物の形成が観測された。これはビシクロ環化を誘導するために導入した脱離基の級数が置換基導入により高くなったことで、シクロチミジン形成反応が遅くなると同時に、自発的な脱離を伴う副反応が起こったためと考えられる。そこで、環化の様式を変更し、シクロチミジン形成を経由しない合成経路、2´水酸基側を脱離させる環化反応の検討を行った。環化前駆体までの合成経路には改善の余地があるものの、シクロチミジン形成を経由しない合成経路による環化反応では、置換基を含むビシクロ[3.2.0]ヘプタン骨格の生成を確認することに成功した。 また、昨年度の推進方策に記載したゆるみ核酸の合成についても核酸に導入するために必要なホスホロアミダイト誘導体の合成を達成した。予期せぬ点として、文献記載のスホロアミダイト誘導体には溶解性の問題があり、DNA自動合成機への適用が困難であったが、適切な保護基を導入することで問題の解決も達成した。 これらの結果をもとに、本研究で合成したヌクレオシドを用いて複合体形成に与える影響を評価していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画の通り、核酸-タンパク質複合体形成を制御する分子として、二重鎖構造にひずみとゆるみを入れた効果を評価している。これまでの研究成果から、ひずみによる複合体形成制御には、糖部骨格の固定化に加え置換基導入による立体障害の有効性が示唆されており、今年度も置換基導入ビシクロ[3.2.0]ヘプタン骨格をもつヌクレオシド誘導体の合成および評価を進めていく。昨年度予想していたように、置換基の影響が環化反応には大きな影響を与えることが明らかになり、置換基の影響を回避した合成法の開発を進めている。現在、目的とするヌクレオシドの重要中間体の合成を達成しているものの、一部合成効率が低く、応用研究に向けて改善が必要であると考えている。特に選択的な脱離基導入は、収率改善のため保護脱保護を用いた着実な経路の検討を進める予定である。メチレン基を導入したゆるみをもつヌクレオシドについては、対応するホスホロアミダイト誘導体の合成は達成しており、アンチセンス核酸に導入後の性質評価を実施していき、ゆるみが複合体形成にどのような影響を与えるかを明らかにしていく。複合体の形成位置が複数あることから、複数の複合体形成の競合反応として解析する系を確立し、影響を定量的に評価していく予定である。特に、メチレン基を5´炭素もしくは3´炭素に導入させたものを比較することで、リン酸間の距離を伸長させたゆるみとしての効果と、糖部構造間の距離を伸長させたゆるみとしての効果を分離して評価が可能になる。これらのデータはRNase HがDNA-RNA二重鎖構造を認識するときに必要な構造的な要因をメカニズムベースで解明する知見にもつながると期待している。 本年度の得られる知見をもとに、核酸-タンパク質複合体形成の精密制御を実現していく。
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Research Products
(6 results)