2022 Fiscal Year Annual Research Report
ひずみとゆるみによる核酸-タンパク質複合体形成の精密制御
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20H02857
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
正木 慶昭 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (00578544)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 核酸化学 / 核酸医薬 / アンチセンス核酸 / RNase H / 核酸ータンパク質相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、核酸医薬品の安全性の課題を解決することを目指し、核酸-タンパク質相互作用を制御する化学修飾の開発を目指している。制御にあたり、着目しているのが核酸-タンパク質複合体形成において導入される核酸構造のひずみである。形成されるひずみに対し、あらかじめひずみを固定した化学修飾やひずみ形成を容易にするゆるみを導入した化学修飾の効果を系統的に評価し、核酸-タンパク質相互作用の制御を目指している。 ひずみとしてビシクロ[3.2.0]ヘプタンおよびビシクロ[3.3.0]オクタン骨格をもつヌクレオシド誘導体、ゆるみとして、メチレンを5'側に導入した5'HMT、メチレンを3'側に導入した3'HMTを合成し、RNaseH依存型アンチセンス核酸をモデル系として用いて評価してきた。ひずみの検討では分子動力学計算により予測される性質と一致する実験結果が得られている。またひずみ核酸に置換基を導入する検討より、RNase Hによる切断反応が起こる活性中心近傍では空間的自由度が低いということが明らかになった。ゆるみの検討としてメチレンを導入した5'HMTや3'HMTは、当初の想定以上にASO・RNA二重鎖構造に対して許容であり、また複合体形成に対して大きな影響を与えることがわかった。特にRNase Hとリン酸基相互作用よりRNase Hと糖部の相互作用の方が大きく影響を与えることが示唆されており、化学修飾設計の指針を与える成果が得られた。これらの知見を発展させ、網羅的解析手法と組み合わせることで、核酸-タンパク質相互作用を制御する化学修飾の設計法・評価法を構築し、核酸医薬品の安全性向上へとつなげていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究成果をもとに、現在までひずみを導入する核酸であるビシクロ[3.2.0]ヘプタン骨格に置換基を導入したヌクレオシド誘導体、およびゆるみを導入した核酸である5'側にメチレンを挿入した5'HMTおよび3'側にメチレンを挿入した3'HMTをアンチセンス核酸に導入し性質を評価した。 まずひずみ核酸であるが、昨年度の報告の通り、重要中間体合成を行い、置換基部位の水酸基をメチル化したのちに、ホスホロアミダイト誘導体とし、アンチセンス核酸へ導入した。二重鎖の安定性は、非置換体と同等であり、通常の二重鎖形成は阻害しないことがわかった。興味深いことに、RNase Hによる切断実験では、これまでビシクロ[3.2.0]ヘプタン骨格が好んでいた部位での切断が大幅に抑制された。これは糖部の立体配座としては望ましい構造であるが、複合体形成にともなう二重鎖構造のゆがみ形成を、追加した置換基が阻害していることを示唆している。置換基の位置はRNase Hとは直接相互作用しない位置であり、二重鎖構造の変化における空間自由度が大きく制限されていることが示唆される。 ゆるみ核酸である5'HMTおよび3'HMTを導入したアンチセンス核酸の二重鎖の安定性は、大幅な不安定化を予期していたが、予想に反し若干の不安定化に収まった。これは先行研究のB型DNA二重鎖とASO/RNA二重鎖構造の違いに由来すると考えられ、ASO/RNAのDNA領域はゆるみを許容できる構造であることが示唆される。RNase Hに対する効果を調べたとこと、5'HMTおよび3'HMTでは異なる効果を示した。この効果を相対反応速度として定量し、比較したところ、リン酸基とRNaseHの相互作用よりも糖部とRNaseHの相互作用の方が重要であることが示唆された。これはRNase Hの複合体形成制御における化学修飾設計の指針を与える成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、核酸-タンパク質相互作用の精密制御にむけた化学修飾核酸の開発を目指しており、特に核酸タンパク質複合体形成における核酸二重鎖構造のひずみおよびゆるみに着目してヌクレオシド誘導体を合成し、評価してきた。歪み構造として合成したシクロ[3.2.0]ヘプタン骨格やシクロ[3.3.0]オクタン骨格は分子動力学計算で推定された構造と一致する影響を示し、分子動力学計算の有効性が明らかになっている。その一方で、当初想定していた以上に空間的な制限があり、置換基導入などは大きく制限されることがわかった。その一方でゆるみ核酸としてメチレンを導入した5'HMTや3'HMTは当初の想定以上にASO・RNA二重鎖構造に対して許容であり、また複合体形成に対して大きな影響を与えることがわかった。そこで最終年度となる次年度では、興味深い性質を示した5'HMTや3'HMTの一般性を評価するために、新たな評価系を立ち上げ、ハイスループットかつ網羅的な評価の実施をする予定である。核酸医薬品の安全性向上を考えたとき、もととなる核酸医薬品のどの位置に化学修飾を導入したら、効果が最大化できるか予測する手法は必要不可欠である。新たな評価系による網羅的なミスマッチを含む二重鎖構造の解析により、化学修飾の効果を予測するモデルを構築し、核酸医薬品に組み込むための化学修飾の設計指針を構築する。最終年度の研究の推進により、RNase Hの複合体形成制御における化学修飾設計法や評価法を開拓し、核酸-タンパク質相互作用の精密制御の方法論を確立していく。
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