2022 Fiscal Year Annual Research Report
アルキンタギングによる脳の病態生理学解明の新たなツールの開発と応用
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20H02881
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
塗谷 睦生 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (60453544)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アルキンタグ / 脳 / プローブ / 生理活性物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、脳内化学情報伝達様式の解析のため、蛍光標識ができない低分子量生理活性物質をアルキン基により標識して可視化解析することを試みている。研究3年目の本年度は、昨年度までに開発に成功したペプチド性生理活性物質のアルキンタギング法を用い、オキシトシンの脳内動態の解析を試みた。 オキシトシンは古くから知られていた末梢組織における生理機能調節に加え、近年、脳内で働き、母子、或いは社会一般における社会的結びつきという高次の精神機能の発現に重要な役割を果たすことが知られるようになった。しかし、分子量が1000程度と非常に小さいため、蛍光標識などができず、よって脳内で放出された後の作用部位や動態などに関して多くが謎に包まれたままであった。そこで、本研究のアルキンタギング法により、オキシトシンの脳内動態の解析を試みた。まず、生化学研究で多用される第一級アミノ基修飾試薬を用い、オキシトシンに分子量比1:1でアルキンを付加することに成功し、アルキンタグ・オキシトシンの開発に成功した。これを脳組織に反応させ、固定後クリック反応により蛍光色素で検出すると、脳組織に特徴的な結合を示すことが明らかになった。更にこれは内在性のオキシトシンにより競合阻害されたことから、アルキンタグ・オキシトシンは、オキシトシンの生物学的性質を模した模倣プローブとなることが明らかになった。そしてその結合様式の解析により、細胞外に放出されたオキシトシンは、細胞内に取り込まれることは無く、細胞表面の結合部位に結合し、その後比較的早く乖離する、一時的な反応を示すことが分かった。更に、免疫組織染色との融合解析により、海馬における特徴的な結合は、これまで知られていなかった一部の標的細胞に特異的なことも分かり、オキシトシンの脳内での作用に新たな知見がもたらされた。これらの結果を取りまとめ、論文で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね当初の予定通りに研究が進んでいるため。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績に記した通り、これまでに、アルキンタグ・ドーパミンおよびアルキンタグ・オキシトシンのプローブとしての確立と応用に成功した。今後は、化学的・生物学的に元の生理活性物質に非常に近く、かつ特異的な検出が可能であるというこれらの新たなプローブの特性を活かすことで、生理・疾患条件下におけるこれらの生理活性物質の挙動とその変化についての解析を進めて行く予定である。特に、これまではマウスから調製した急性脳スライスを用いて動態解析を行ってきたが、今後これを更に展開し、生きた動物の脳内における動態に迫るため、in vivo投与とその後の解析を試みる予定である。これに薬理学的・遺伝学的操作を合わせ、脳内における生理活性物質動態の制御についての新たな知見を得ることを試みる。 また、アルキンタグ・オキシトシンの開発過程で確立した生理活性ペプチドのアルキンタギング法は、他の生理活性ペプチドにも応用可能であることが明らかとなった。そこで今後は、オキシトシンのみならず、他の重要な生理活性ペプチドに同様のタグを試み、これらの脳内動態の検証を図る。これにより、各々の低分子量生理活性物質の生理学・病態生理学的理解を図って行くと共に、アルキンタギング法の更なる一般化、展開を図る。 最後に、アルキンタグ分子につき、これまではクリック反応による検出を主に進めてきたが、ラマン標識としても利用できるアルキンタグの利点を活かし、ラマン散乱顕微鏡による検出も試みて行く。
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Research Products
(9 results)