2020 Fiscal Year Annual Research Report
イネのヒ素吸収・移行モデル構築による高温下での子実ヒ素濃度上昇機構解明と低減戦略
Project/Area Number |
20H02889
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
松本 真悟 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 教授 (00346371)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小野 圭介 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 上級研究員 (20549555)
須田 碧海 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 主任研究員 (20789573)
森野 和子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 中央農業研究センター, 主任研究員 (30355573)
小葉田 亨 島根大学, 生物資源科学部, 名誉教授 (60186723)
小林 和広 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 准教授 (90234814)
赤羽 幾子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 主任研究員 (90530569)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ヒ素 / コメ / TGC / 温暖化 / 無機ヒ素 / DMA / ケイ酸 / 鉄 |
Outline of Annual Research Achievements |
供試品種はコシヒカリ(島根・新潟)、および節のヒ素蓄積能力の異なる変異体(それぞれ高ヒ素変異体A2、高ヒ素変異体A7、低ヒ素変異体A3)。1/5000aワグネルポット内で出穂期まで同様の管理により栽培した。出穂後にそれぞれのポットをTGC(温度傾斜型チャンバー)へ搬入し、露地、微高温、高温、超高温の4つの温度区に分けて収穫まで栽培した。 収穫後の植物体は生育・収量調査を行い、その後玄米ヒ素濃度を高めるメカニズムと遺伝的要因の考察のため、水稲の部位別ヒ素蓄積量について分析を行う。
GC搬入後の各温度処理区の平均気温は、それぞれ露地:29.2℃、微高温:30.2℃、高温:31.4℃、超高温:32.3℃だった。また夜間の平均気温の差が露地と超高温区でも0.8℃程だったのに対して、昼間の平均気温は露地と超高温区で5.5℃の差があった。また生育の面でも、より高温の処理区ほど、どの品種でも収量や穂の乾物重が低下する傾向が認められた。 温度区ごとに各品種でコメの総ヒ素濃度を測定した結果、どの品種においても平均気温とコメの総ヒ素濃度との間には正の相関が認められた。島根や新潟のコシヒカリと比較して高ヒ素変異体A7は極めて高い総ヒ素濃度を示した。一方、低ヒ素変異体A3はそれらと比較して低い値を示した。登熟期の気温と玄米総ヒ素濃度の関係を解析すると、玄米総ヒ素濃度が最も高い値を示した高ヒ素変異体A7は回帰式の傾きが最も大きく、総ヒ素濃度が最も低い低ヒ素変異体の回帰式の傾きが最も小さい値となった。また、新潟および島根産のコシヒカリの回帰式の傾きは両者の中間的な値を示した。このことから、節のヒ素蓄積能力の高い品種に比べ能力の低い品種では高温になるほどその影響をより強く受けることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ対策により,実験開始はやや遅れがあったものの,その後は栽培試験,分析ともに順調にこなすことができ,当初の予定通りの進捗状況にある.
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Strategy for Future Research Activity |
ヒ素は環境中に広く存在する元素であり、その化学形態の一つである無機ヒ素は毒性が高く人体にとって有害である。出穂後の気温とコメの無機ヒ素濃度には相関関係が認められ、登熟期の高温がコメのヒ素濃度を上昇させる原因となることが明らかになっており (Arao et al. 2018)、また近年の地球温暖化に伴い、水稲の登熟期においても温暖化傾向が顕著になっている。 水稲において、根から吸収されたヒ素は水稲に存在するOsABCC1と呼ばれる輸送タンパク質を介して節維管束の液胞へ隔離される(Ma et al. 2014)。それにより、節はヒ素の玄米への移行を抑制するフィルターのような役割を果たしている。登熟期の高温がコメ中のヒ素濃度を高める原因の一つには、高温によるこの輸送体タンパク質の変性等に伴う節のフィルター機能の低下が考えられるが、高気温条件下でこの節の機能が受ける影響については明らかにされていない。そこで本研究では、コシヒカリおよびヒ素の節への蓄積・隔離能力が異なるコシヒカリ変異体を供試して、①高気温条件下での登熟期間中の穂の生育とヒ素吸収の関係性、②登熟期間中の高温と遊離酸化鉄・可給態ケイ酸の濃度の差が玄米ヒ素濃度に及ぼす影響の品種間差異をそれぞれ調査し、登熟期の高温が玄米ヒ素濃度に及ぼす影響の品種間差異および遺伝的要因を明らかにすることを目的とする。
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Research Products
(3 results)