2021 Fiscal Year Annual Research Report
作物根圏におけるウイルス叢の多様性とその感染動態から紐解く生態的意義
Project/Area Number |
20H02987
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
近藤 秀樹 岡山大学, 資源植物科学研究所, 准教授 (40263628)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久野 裕 岡山大学, 資源植物科学研究所, 准教授 (70415454)
鈴木 信弘 岡山大学, 資源植物科学研究所, 教授 (70206514)
兵頭 究 岡山大学, 資源植物科学研究所, 准教授 (80757881)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 作物 / 根圏 / ウイルス / リザーバ / 水平伝搬 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、ムギ類生存圏(特に根系)におけるウイルス叢の多様性・普遍性や動態を紐解き、さらにそれらの未知なる生態学的役割の一端に迫ることを目指している。以下に本年度の研究実績を示す。 柱①根圏に存在する主要な菌類・昆虫ウイルス群の宿主探索:初年度に引き続き、ムギ類(オオムギ・コムギ)の地上部・根系、さらにアブラムシ、うどんこ病菌などのRNAseqデータを取得した。得られたデータセットはウイルス配列の確認作業や分子系統解析を進めている。さらに、北海道のコムギサンプルより見出された新規フレキシウイルス(WVQ)の解析の結果,当該圃場に三系統が存在し、ライムギにも感染できること、さらに土壌伝染性ウイルスの可能性が高いことを見出している。根系ウイルス叢のリザーバー探索については、本年度はオオムギ根のRNAseqデータに含まれる微生物リードの抽出と配列相同性解析により、微生物叢の概要を調査した。 柱②根圏ウイルスの生物界を跨ぐ水平伝搬ポテンシャルと宿主への影響:昨年度より継続中のルテオウイルスなど新規植物ウイルスのゲノム解析を進めており、RT-PCRおよびRLM-RACE解析により全長ゲノムRNA配列を確認・決定した。また、圃場のうどんこ病菌のウイルスについては、今年度はdsRNAを鋳型にした全長cDNAのPCR増幅法の検討を進め、そのアンプリコン配列解析により未同定のゲノム末端配列の解析を進めている。 柱③根圏ウイルス叢の年次変動とムギ類ウイルスの病原性の(再)評価:核酸抽出を伴わない簡易ウイルス診断法(RT-PCRをベースとする)の条件を設定し、一部圃場サンプル(葉)でルテオウイルス等の検出を進めている。現在、圃場オオムギサンプル(保存している過年度のを含む)について網羅的に検定すすめている。また、アブラムシ媒介性新規植物ウイルスについては、チャンバー内試験にて病原性評価を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の現在までの進捗状況を以下に記す。 柱①に関して、オオムギ、コムギの圃場サンプル(根系)から見出されている新規のルテオウイルスやフレキシウイルス(WVQ)などにくわえ、菌類ウイルス由来と想定される配列も多数見出されてきている。後者については、複数年度サンプルで詳細な比較解析を進めている。さらに、CWMV(フロウイルス)が、オオムギの特定系統で発生することをはじめて明らかにした。WVQとCWMVに関しては、既に別々の論文として報告が完了しており、オオムギ圃場に発生する新規植物ウイルスに関しても論文化に向け準備を進めている。 柱②の成果として、オオムギ、コムギ圃場内外の雑草類に寄生するアブラムシ、さび病菌において進めたRNAseq解析で新規性の高いウイルス叢が見出されてきている。また、二カ年のサンプルで、圃場のウイルス叢の多様性や普遍性が徐々に紐解かれつつある。これらのウイルス叢データを今後解析することで、ムギ類作物のリザーバーポテンシャルを理解する糸口になると期待される。オオムギサンプルからの菌類の分離や新規感染性クローンの構築については、WVQ論文化対応のため労力をさいたため次年度に行うこととした。 柱③では、オオムギの代表的なウイルスの簡易な遺伝子診断系の導入し、オオムギ圃場サンプル(過年度サンプルを含む)での検定を進めている。また新規植物ウイルスのラボ系統(WVQを含む)を確立したことで、その病原性や伝搬性試験を進める環境を整備した。これにより、最終年度のムギ類ウイルスの発生動向調査や動態解析が加速されると期待できる。根系土壌からのウイルス検出については、過年度サンプルの検定を優先としたため、次年度に実施する。 以上、関連成果の論文化を先行して進めたため次年度に持ち越しとなっている部分もあるが、上記の通り本課題は全体としては当初計画通り順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究実施計画は以下の通りである。 柱①ムギ類の地上部・根系、寄生昆虫類(アブラムシ)・病原菌(うどんこ病菌)より取得したNGSデータを用い、ウイルス配列のさらなるマイニングを進める。得られたウイルス配列の分子系統解析により、オオムギ葉圏、根圏のウイルス叢の多様性を理解する。また、植物側のリザーバーポテンシャルを評価するために、アブラムシおよびその寄生する植物体をサンプリングしそのNGSデータを取得する。ムギ根系のNGSデータを用い、根圏(根の表面や内部を想定)に存在する菌類・細菌叢を評価すると共に、引き続きオオムギ根系のNGSデータの取得を進める。オオムギ葉や根系サンプルを用い培養可能な菌類の分離を試み、分離できた場合はそのウイルス叢解析を進める。 柱②ムギ類生存圏のウイルス水平伝搬を評価可能なモデル実験系の構築に向けた基盤を整備する。柱①の新規の根圏ウイルスについても、水平伝搬ポテンシャルの可能性を持つウイルスを探索する。既に構築済みバイモウイルス、フロウイルスに加え、新規にルテオウイルスについて、cDNAクローンの構築を進める。さらに、菌類の新奇アルファ様ウイルス、トンブス様ウイルスウイルスなども、可能であれば全長cDNAクローンの構築を目指す。 柱③ムギ類根圏の主要植物ウイルスの季節・年次変動をモニターするために、葉で用いている簡易ウイルス遺伝子診断が応用可能であるか検討する。また、本手法を用いて当該年度のフィールドでウイルス発生状況を調査する。また、根系土壌からのウイルス検出について検討を加える。新規植物ウイルス(WVQを含む)については引き続きムギ類作物への伝搬性試験と病原性評価を進める。
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[Journal Article] Identification of a novel quinvirus in family Betaflexiviridae that infects winter wheat2022
Author(s)
Kondo, H., Yoshida, N., Fujita, M., Maruyama, K., Hyodo, K., Hiasno, H., Tamada, T., Andika, I.B. and Suzuki, N.
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Journal Title
Frontiers in Microbiology
Volume: 12
Pages: 715545
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Epidemic progress of beet necrotic yellow vein virus: evidence from an investigation in Japan spanning half a century2022
Author(s)
Nakagami, R., Chiba, S., Yoshida, N., Senoo, Y., Iketani-Saito, M., Iketani, S., Kondo, H., and Tamada, T.
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Journal Title
Plant Pathology
Volume: 71
Pages: 715-728
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Plant Viruses Reported from Japan2022
Author(s)
Fuji S, Mochizuki T, Okuda M, Tsuda S, Kagiwada S, Sekine, K, Ugaki M, Natsuaki K-T, Isogai M, Maoka T, Takeshita M, Yoshikawa M, Mise K, Sasaya T, Kondo H, Kubota K, Yamaji Y, Iwanami T, Ohshima K, Kobayashi K, Hataya T, Sano T, Suzuki N.
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Journal Title
Journal of General Plant Pathology
Volume: 88
Pages: 105-127
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Presentation] Diverse partitiviruses from the phytopathogenic fungus, Rosellinia necatrix2021
Author(s)
Telengech, P., Hisano, S., Micheni, C. M., Hyodo, K., Arjona-Lopez, J.M., Lopez-Herrera, C., Kanematsu, S., Kondo, H., and Suzuki, N.
Organizer
The 40th Annual Meeting of the American Society for Virology
Int'l Joint Research
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