2020 Fiscal Year Annual Research Report
カイコを用いて昆虫の化性決定機構の分子基盤を明らかにする
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20H02997
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木内 隆史 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (60622892)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | カイコ / 化性 / 休眠性 / 時計遺伝子 / 遺伝子組換え |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫が1年間に世代を繰り返す性質を化性という.化性は遺伝的な影響を強く受け,昆虫ごとにその行動や形質,生育する環境とよく適合している.しかし,化性の違いを生み出す遺伝的基盤は不明である.本研究では,時計遺伝子における変異が昆虫の化性決定に寄与することを,高精度なゲノム情報と高度な遺伝子組換え技術が利用できるカイコを用いて実証する. 本研究の目的は,カイコを用いて昆虫の化性決定機構の分子基盤を明らかにすることである.そのために,以下の3つの課題達成を目指し,それぞれ成果を得た. 1. チョウ目昆虫の概日時計システムを明らかにする.ゲノム編集により樹立した主要な時計遺伝子のノックアウト系統を用いて,各時計遺伝子の発現パターンを詳細に調査した.また,孵化リズムアッセイ系を立ち上げ,各時計遺伝子のノックアウト系統において概日リズムが失われていることを確認した.以上の成果から,カイコの各時計遺伝子の機能についての示唆を得た.チョウ目昆虫において同様の解析が行われた例はほとんどないが,同じチョウ目昆虫においても時計遺伝子の機能が多様化していることを示す成果を得た. 2. 時計遺伝子に改変を施すことで概日時計を操作し,化性への影響を評価する.時計遺伝子の発現を操作できる遺伝子組換えカイコを作出するために必要なベクターを設計し,作成を開始した.また,ゲノム編集による改変を目指して,外来遺伝子のノックインを試みた. 3. 大規模ゲノム情報解析から化性の変化につながった変異を同定し,化性の変化を再現する.公開されているカイコ系統のゲノムおよび形質情報をできるだけ多く収集し,大規模比較ゲノム解析が行える基盤を整備した.複数の解析方法を試しながら,化性に関与する遺伝子を同定するために最適な方法を検討した.また,新規に数系統の全ゲノムリシークエンスを行い,ゲノム情報の充実を図った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展しているが,遺伝子組換えカイコの作出においては遺伝子導入効率が低いために遅れが生じている.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究における3つの課題達成を目指し,それぞれ以下の方策で研究を推進する. 1. チョウ目昆虫の概日時計システムを明らかにする.時計遺伝子および時計関連遺伝子の発現パターンを網羅的に調査するために,正常カイコおよび時計遺伝子ノックアウトカイコを用いて,RNAシークエンスを行う.また,生体を用いて推測された時計遺伝子の機能について,培養細胞を用いて生化学的な実験による検証を行う.さらに,時計を動かすシステム(入力系)や時計情報を伝達するシステム(出力系)にかかわる遺伝子候補についてもノックアウトカイコを作出して,休眠性への影響をみる. 2. 時計遺伝子に改変を施すことで概日時計を操作し,化性への影響を評価する.効率よく遺伝子組換えカイコを作出するために,まずは遺伝子組換えカイコの作出効率を向上し,技術基盤を改善する.その上で,時計遺伝子改変カイコの樹立を目指す.また,さらに精密なゲノム改変を実現するために,ゲノム編集による遺伝子組換えカイコの作出にも挑戦する. 3. 化性の変化につながった変異を大規模ゲノム情報解析から同定し,同じ変異を導入することで化性の変化を再現する.多化性カイコ系統のゲノム情報が少ないため,新規にゲノムリシークエンスを行う.大規模比較ゲノム解析から化性にかかわる遺伝子候補を選定し,ゲノム編集により休眠性への関与を調べる.
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Research Products
(4 results)