2021 Fiscal Year Annual Research Report
「オルガネラ様防衛共生体」の基盤解析から応用展開へ
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20H02998
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
中鉢 淳 豊橋技術科学大学, エレクトロニクス先端融合研究所, 准教授 (40332267)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | マイクロビオーム / ディアフォリン / プロフテラ / 二次代謝産物 / リボソーム / ポリケチド / 生物活性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ミカンキジラミDiaphorina citri(半翅目:腹吻亜目:キジラミ科)は、カンキツグリーニング病の病原体Candidatus Liberibacter spp.(Alphaproteobacteria)を媒介する、世界的に重要な農業害虫である。D. citriは、共生器官 「バクテリオーム」に、Ca. Carsonella ruddiiとCa. Profftella armatura(ともにGammaproteobacteria)の2種類の共生細菌を保有し、経卵感染により世代を超えて受け継いでいる。Carsonellaは典型的な栄養共生体であるのに対し、Profftellaは新規二次代謝産物「ディアフォリン」を産生する、他に類例のない「オルガネラ様防衛共生体」と考えられる。本年度は、極めてユニークな性質を持つProfftellaの進化動態について理解を進めるべく、キジラミ科12種の共生細菌叢解析を行い、これまでアブラムシ(半翅目:腹吻亜目)の二次共生体としてのみ認識されていたFukatsuia symbioticaやSerratia symbioticaを世界で初めてキジラミから検出するなど、多様な共生細菌叢を明らかにした。また、枯草菌Bacillus subtilis (Firmicutes: Bacilli)からリボソームを単離するとともに、大腸菌Escherichia coli (Gammaproteobacteria)由来再構成型無細胞タンパク質合成系、および大腸菌-枯草菌ハイブリッド再構成型無細胞タンパク質合成系を用いることで、原核性リボソーム活性に対するディアフォリンの影響を評価し、ディアフォリンが大腸菌と枯草菌のリボソームに対して異なる活性を示すことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目標は次の5点である。1)Profftella姉妹系統を用いた比較ゲノム解析に基づく、「オルガネラ様防衛共生体」の進化動態の解明。2)RNA干渉法による遺伝子発現抑制に基づく、ミカンキジラミ・バクテリオーム共生系の維持機構の解明(=低環境負荷な新規害虫防除法の開発基盤の構築)。3)Profftellaの産生する二次代謝産物「ディアフォリン」の各種原核生物に対する生物活性の解明。4)3の分子機構の解明。5)Profftella姉妹系統からの多様なディアフォリン類縁体の取得とその生物活性の解明(ディアフォリン関連化合物の応用基盤の強化)。 研究計画2年目の本年度の研究において、目標1)に関して進展を得るとともに3)と4)についても重要な成果を得ることができた。このため、研究計画はおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
上記研究目標について、1)についてはさらに多くのDiaphorina spp.について共生細菌叢解析、および共生細菌ゲノム解析を進め、「オルガネラ様防衛共生体」の進化動態について考察を深める。この過程で既知のディアフォリンと異なる構造を持つ類縁体を産生すると予測された系統については、5)にあるように当該類縁体の抽出・精製を行い、その生物活性の評価を進める。2)については、RNA干渉による遺伝子発現抑制効果の向上を図り、これまでの解析で得られている、共生関連と目される複数遺伝子の機能解明を目指す。3)については、これまで解析を行った大腸菌・枯草菌にとどまらず、多様な細菌系統を用いて、ディアフォリンの生物活性評価を進める。4)については、これまでの研究で、すでにディアフォリン処理に対する挙動の明らかになっている大腸菌から着手し、RNAseq解析などを行うことで、ディアフォリンによる生物活性発現のメカニズム解明を目指す。
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