2020 Fiscal Year Annual Research Report
常緑針葉樹の光合成調節機構の複合体プロテオミクスおよび分光学的手法よる統合的解析
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20H03017
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田中 亮一 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20311516)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
秋本 誠志 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (40250477)
北尾 光俊 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (60353661)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 光合成 / 常緑針葉樹 |
Outline of Annual Research Achievements |
森林総研北海道支所において、イチイ、トドマツ、エゾマツ、アカエゾマツ、ヒノキアスナロの苗を栽培し、それぞれ、Sun(直射日光が当たる条件)とShade(寒冷紗によって被陰舌条件)で生育した。また、北大・低温研においては、2 mから8 mのサイズのイチイを材料に以下の研究を実施した。年間を通して、光化学系IIの量子収率(YII)と最大量子収率(Fv/Fm)を測定し、季節・気温によって、YIIが減少するタイミングを調べた。また、光合成色素の変動を調べ、RNAとタンパク質の変動を調べるため、サンプリングを行った。この結果、春から秋にかけては、葉に当たる光強度とYIIは逆相関を示したが、冬においては、すでに報告されている通り、YIIは光強度の相関はほとんど示さず、常に低い値を示した。一方、冬季はYIIは気温に強い相関を示した。自然条件における、このような気温との強い相関の報告は初めてである。春から秋にかけては、クロロフィルとカロテノイドの比率はほぼ一定であったが、冬にはxanthophyll cycleの色素であるzeaxanthinがクロロフィルあたりで数倍に上昇した。この結果は、春から秋にかけては、光化学系タンパク質にこれらのクロロフィルとカロテノイドが結合していることを示しているが、冬には、xanthophyll cycleの色素は光化学系タンパク質には結合していないことを示唆している。また、chlorophyll a/b比がSun条件下で顕著に増加した。この結果から、冬季のSun条件下においてchlorophyllおよびzeaxanthinを結合するタンパク質の増加が強く示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記の光合成活性の測定、色素測定、RNA-seqの解析は2020年度に完了させることを予定していたが、新型コロナの影響で光合成装置の活性測定に必要な装置の納入が遅れ、光合成活性の測定とそれにともなうサンプリングの計画がずれ込んでしまった。一部の実験はやり直すこととし、2020年度に予定していたサンプリングを終了させた。いくつかの実験に関しては、結果を再確認することができた。この結果、光化学系IIの量子収率の気温との相関やクロロフィルとカロテノイドの比率について新しい知見を見出した。また、初年度、Open条件でのヒノキアスナロの生育の調子が悪かったため、ヒノキアスナロをあきらめ、かわりにエゾマツとアカエゾマツを研究対象に加えた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究において重要であるサンプリング、光化学系IIの量子収率の測定、光合成色素の測定は続けつつ、タンパク質の解析に方に重心を移す。特に、イムノブロッティングによる光化学系タンパク質や光化学系の活性の制御に関するタンパク質の変動の解析が重要である。さらに、それぞれの季節の常緑針葉樹からチラコイド膜を単離し、適切な条件で光化学系を可溶化し、Native電気泳動によって複合体を分離し、それぞれの複合体の組成とエネルギー移動を解析する必要がある。このため、チラコイド膜の可溶化条件とNative電気泳動の条件検討が重要になる。また、並行してsucrose density gradientを利用した超遠心分離も試みる予定である。
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