2021 Fiscal Year Annual Research Report
常緑針葉樹の光合成調節機構の複合体プロテオミクスおよび分光学的手法よる統合的解析
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20H03017
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田中 亮一 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20311516)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
秋本 誠志 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (40250477)
北尾 光俊 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (60353661)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 光合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
森林総研北海道支所において、イチイ、トドマツ、エゾマツ、アカエゾマツ、ヒノキアスナロの苗を栽培し、それぞれ、Sun(直射日光が当たる条件)とShade(寒冷紗によって被陰舌条件)で生育した。また、北大・低温研においては、2 mから8 mのサイズのイチイを材料に以下の研究を実施した。今年度は、タンパク質レベルでの解析に重点をおいて研究を進めた。また、光化学系IIの量子収率(YII)と最大量子収率(Fv/Fm)の測定も前年度から継続して行い、季節・気温によって、YIIが減少するタイミングを比較した。 まず、光化学系IIのサブユニット(D1)に関しては、驚くべきことに年間の変動はほとんど示さなかった。この結果は、従来言われてきたような光化学系IIの光阻害(D1の分解による光化学系IIの活性抑制)が、冬季の針葉樹ではそれほど顕著ではないことを示唆している。一方で、光化学系Iのサブユニット(PsbA/BとPsaD)は、2月から4月に関して、Sun sideでのみ減少を示した。この結果は、光化学系Iの光阻害(光障害)が起きていることをしめしている。一方、春から秋にかけて、光化学系IIにおいて励起エネルギーの熱放散を制御するPsbSの量は年間を通じてほぼ一定であった。また、Elipは、YIIの減少の時期と同じタイミングで増加していることがわかった。これらの結果はElipがYIIの減少に関与するという仮説と一致する。 さらにイチイの葉を用いた時間分解クロロフィル蛍光の測定を行い、予備的な結果ではあるが、光化学系IIから光化学系Iへのエネルギー移動(スピルオーバー)による熱放散は、夏季も冬季も大きな差はないことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度の光合成測定装置の納入の遅れや、イチイのチラコイド膜の可溶化方法の確立に手間取ったことが主な原因となり、全体の進行は予定よりも遅れ気味である。 現状では、ミキサーの買い替えなどの対策や界面活性剤の濃度を再検討するなどの対策をとったところ、チラコイド膜の可溶化率が上昇したので、この問題は解決したと考えている。 また、針葉樹のElipをシロイヌナズナに導入する実験に関してもコンストラクションがうまくいかなかったために全体的に遅れている。これはプラスミドの配列が初期情報とは異なったことが原因であったため、プラスミドの配列を次世代シークエンサーにより取得し、コンストラクションをやり直した。遺伝子導入に関しては現在進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度、チラコイド膜単離の条件、可溶化の条件検討に大きな進展がみられたので、今年度は、sucrose density gradient超遠心による光化学系の単離、Native電気泳動による光化学系の詳細な分析を進める。このサンプルを用いて、それぞれの光化学系の時間分解クロロフィル蛍光測定を行い、具体的にどの複合体がどの時期にどの程度の熱放散をしているのかを明らかにする。 さらに、上述の複合体に関してイムノブロッティングおよび質量分析を行うことにより、夏と冬の複合体の組成の分析をすすめる。 また、針葉樹のElipの複数のフォームを導入したシロイヌナズナの解析を進め、これらの導入によって光化学系の熱放散とその制御にどのような効果が得られるかを検証する。
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