2020 Fiscal Year Annual Research Report
気候変動により増大する災害リスク定量化のための洪水・土砂流出量予測手法の提案
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20H03019
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
内田 太郎 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (60370780)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
齋藤 仁 関東学院大学, 経済学部, 准教授 (00709628)
山川 陽祐 筑波大学, 生命環境系, 助教 (20611601)
浅野 友子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 講師 (80376566)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 気候変動 / 降雨流出 / 土砂災害 / 斜面崩壊 / 土石流 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、気候変動による豪雨の激甚化が中山間地集落の自然災害リスクに及ぼす影響を評価するために「山地流域における降雨規模(1降雨の総降水量及び降雨強度)の変化に対する水・土砂流出の応答特性」の解明し、予測手法を提案することを目的に実施している。具体的には、1.斜面土層内に降雨の一部が貯留される状態(比流量<降雨強度)、2.斜面土層が飽和に達し、比流量≒降雨強度となる状態、3.土石流や斜面崩壊の発生により、地中に貯留されていた水が流出する状態(比流量>降雨強度)といったように降雨規模の大小により状態が変化するという作業仮説の検証を行い、容易に取得可能な場の条件に関する情報から山地流域における災害を引き起こすような豪雨時の洪水流量・土砂流出量を予測する手法を提案することを目的とする。 そこで、本研究では、まず、山地流域の豪雨時の降雨流出応答を明らかにする。中でも、土砂災害の発生場にしばしばなる大起伏山地は水文観測データの蓄積が進んでいないことを考慮し、東京大学秩父演習林や筑波大学井川演習林において水文観測を実施する。その上で、既存の中起伏山地の水文観測結果と比較し、大起伏山地の降雨流出応答がこれまでの中起伏山地における知見で説明可能か検証しつつ、降雨規模の増大に伴い1から3の状態に遷移するとした作業仮説を検証する。さらに、山地流域で土石流、斜面崩壊が発生した場合の流出量に関する各種データを集約・分析し、土砂移動が生じるような豪雨時の山地流域の水および土砂の流出特性について検討する。ここでは、特定の山地流域における航空レーザー測量データを用いた解析と、各種のデータベースを用いた日本列島スケールの解析を実施する。これらの解析を通して、上記1~3の作業仮説を検証した上で、検証結果に基づき、数値解析により土石流、斜面崩壊の発生を予測する手法を提案する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、山地流域の豪雨時の降雨流出応答に関する水文観測を東京大学秩父演習林や筑波大学井川演習林において実施した。中でも、大井川中流域の国内でも屈指の大起伏山地に位置する筑波大学井川演習林では、流域面積の異なる7流域におけるにおける水位の連続観測に着手した。研究の初期に観測に着手した流域では、約2年間に及ぶデータが蓄積されてきている。さらに、洪水流出過程の予測手法を検討するために、令和元年東日本台風時の阿武隈川内川流域の流出解析を実施した。その結果、年に数回発生するような規模の降雨で同定したパラメータで、災害時の流出量をある程度予測できることを示した。並行して、土石流の流下特性の予測に関する数値解析を実施した。 また、土砂移動発生時の水・土砂の流出量については航空レーザー測量による差分解析結果を用いて、2つの解析を実施した。1つは、木曽川水系の南木曽で発生した土石流を対象に、航空レーザー測量による差分データから、土石流のピーク流量を推定する手法を検討した。その結果、航空レーザー測量による差分データから推定される土石流のピーク流量は、その他の観測データがから推定される値と概ね整合することを示した。 さらに、筑後川水系の赤谷川の対象に斜面崩壊による土砂の生産量について解析を行った。その結果、降雨量、各種の地形指標では、土砂生産量は決定論的に予測することは難しく、確率評価の必要性を示した。さらに、数値解析による斜面崩壊予測手法について、水文過程の取扱い(定常または非定常)が及ぼす影響について検証した。、 さらに、日本列島スケールの斜面崩壊・土石流の発生状況についても検討をおこない、気候条件が降雨量と斜面崩壊・土石流の発生確率のの関係に影響を及ぼしていることを確認した。、
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Strategy for Future Research Activity |
降雨流出特性は、降雨条件の違いに強く影響を受けることが考えられる。そこで、豪雨時の更なるデータの蓄積を図るために、筑波大学井川演習林における観測を継続する。その際、降雨流出応答の実態に加えて、降雨流出応答の支配要因を検討するために、地形解析を実施した上で、地形量と降雨ピークから流出ピークまでの遅れ時間の関係について検討する。ここでは、従来、中起伏山地で、遅れ時間を支配する要因として着目されてきた河道の平均流下距離に特に着目する。 また、土石流のピーク流量については、推定手法が確立されつつあることを踏まえ、他地域の土石流にもあてはめ、データの蓄積を図る。一方で、斜面崩壊をともなう土砂生産については、気候条件の異なる流域における土砂生産量の実態について、航空レーザー測量データの差分解析により検証する。さらに、日本列島スケールの解析においては、用いているデータベースが、市町村からの災害報告をベースとしているため、社会的な要因の影響が考えられる。そこで、この社会的な要因についても分析した上で、降雨量と斜面崩壊・土石流の発生確率の関係性について検討する予定である。
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Research Products
(8 results)