2021 Fiscal Year Annual Research Report
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20H03079
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Research Institution | Teikyo University of Science & Technology |
Principal Investigator |
山田 秀俊 帝京科学大学, 生命環境学部, 講師 (70511955)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | DHA / Rack1 / PKCθ / 抗腫瘍増殖 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、Rackとオメガ3脂肪酸であるDHAの相互作用に着目し、蛋白質相互作用制御因子としてのDHA機能を解明するため、①Rack1とDHAの相互作用機構解析、②DHAによってRack1との相互作用が変化する蛋白質の探索、③DHA負荷による細胞内シグナル変化の解析、④DHA欠乏による細胞内シグナル変化の解析に取り組んでいる。 Rack1はトリプトファン-アスパラギン酸(WD)繰り返しモチーフを特徴とするスキャフォールド蛋白質であり、WDモチーフが蛋白質相互作用に重要なドメインである。DHAはRack1のWDモチーフに作用することで、蛋白質相互作用に影響を与えていると考えられる。そこで、各WDを欠損したRack1組み替え蛋白質(ΔWD-Rack1と表記)および各WDペプチドを発現するベクターを作製し、DHAとの相互作用を検討した。検討の結果、DHAは1から7番のWDモチーフのどれか特定のWDモチーフとのみ相互作用しているわけではなく、全てのWDモチーフと相互作用することが示唆された。 プロテインカネースC(PKC)には9種類のアイソフォームがあるが、DHAによってRack1との相互作用が抑制されるのはPKCβとPKCθであることを明らかにした。さらに、メラノーマ細胞株(B16F10)にてPKCβとPKCθの発現を解析したところ、PKCθがメラノーマ細胞株で発現していることを見出した。次に、DHAによるPKCシグナル抑制がPKCθ発現依存的であるかについて検討するため、PKCθを発現しているメラノーマ細胞とPKCθを発現していないメラノーマ細胞を用いて、DHA負荷によるPKCシグナル変化を解析したところ、PKCθを発現しているメラノーマ細胞でのみ、PKCシグナル抑制が観察された。このことから、DHAによるPKCシグナル抑制がPKCθ発現依存的であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では、蛋白質相互作用制御因子としてDHAを捉えることで、これまで未解明であったDHAの作用機序を説明することを目標として、研究に取り組んでいる。その中で、これまで詳しい作用機序の明らかにされていなかったDHAの抗腫瘍作用について、DHAがメラノーマ細胞においてPKCθとRack1の相互作用の抑制することでPKCシグナルを減弱させるという、DHAの作用機序について新たな解釈を与える結果が得られている。PKCθは成熟T細胞の活性化に必須の分子であることから、PKCθを介したDHAの作用については、当初想定していたメラノーマ細胞増殖抑制機構の説明だけでなく、T細胞がん増殖抑制作用やDHAによる自己免疫疾患の抑制作用に関しても新たな知見を与える可能性が高い。そこで当初の実験計画に加えて、複数のT細胞性白血病株での解析準備を進めている。また、実験計画にて候補に挙げていたPKC以外の分子については、発現ベクターと発現系の構築に想定以上の時間を費やしたが、遺伝子のクローニングおよび発現ベクター作製、細胞への遺伝子導入など解析の準備はほぼ整っており、順次解析を進められる状況になっている。 DHA欠乏による細胞内シグナル伝達の変化に関しては、計画通り3年目の課題として取り組んでいく。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、DHAがPKCθとRACK1の相互作用を抑制すること、メラノーマ細胞株においてPKCθ発現とDHAによるJNKリン酸化抑制に相関があることを見出した。これらの結果は、メラノーマ細胞においてDHAがPKCθシグナル伝達抑制に働き、がん細胞増殖を抑制することを示唆している。PKCθはT細胞において、細胞分化・増殖および免疫シナプス形成に必須の分子であることから、本年度はT細胞およびT細胞性白血病細胞株を対象として、T細胞増殖、腫瘍細胞増殖、免疫シナプス形成に対するDHAの作用を検討する。また、DHA欠乏培地でのT細胞株培養方法を検討し、DHA欠乏がT細胞に及ぼす影響についても検討する。 腫瘍細胞増殖はJurkatやMOLT-4Fなど複数のヒトT細胞性白血病細胞株を用いて、DHA添加による細胞増殖抑制作用を解析する。T細胞増殖では、マウスT細胞をCD3抗体およびCD28抗体で刺激した際に誘導される細胞増殖に対するDHAの作用を解析する。免疫シナプス形成に対する作用解析では、Jurkat細胞をCD3およびCD28で刺激した際に活性化されるシグナル伝達経路および遺伝子発現のDHAによる変化を解析する。DHA欠乏培地調製は、通常用いるウシ胎児血清の代わりに、脱脂ウシ血清に大豆油および大豆レシチンを添加した培地を検討する。 DHAのRACK1を介したSrc, AChE-R, NR2B, Gβへの作用については、蛋白質相互作用およびシグナル伝達へのDHAの作用について引き続き検討する。また、Src, AChE-R, NR2B, Gβを介したシグナル伝達経路のなかでDHAによる作用が観察された経路に関しては、T細胞株培養で確立したDHA欠乏培地での細胞培養方法を活用して、DHA欠乏による影響について解析する。
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