2021 Fiscal Year Annual Research Report
中枢神経による大腸運動制御機構と排便異常に認められる性差のメカニズム解明
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20H03148
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
志水 泰武 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (40243802)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山口 裕嗣 名古屋大学, 環境医学研究所, 特任助教 (10542970)
内藤 清惟 鹿児島大学, 農水産獣医学域獣医学系, 准教授 (30794903)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 消化管 / 排便 / 脊髄 / 大腸運動 / 性差 / 痛み / 下行性疼痛抑制系 |
Outline of Annual Research Achievements |
過敏性腸症候群(IBS)はストレスに起因し、腹部の痛みや下痢や便秘といった排便障害を生じる疾病である。IBSの症状には明確な性差が認められ、男性には下痢、女性には便秘が多いことが知られている。このような性差が生じるメカニズムは不明である。研究代表者は、脊髄の排便中枢が大腸運動の制御に重要であること、脳と脊髄の連絡に下行性疼痛抑制経路が関与することを明らかにしてきた。これらの成果を基盤として、本研究ではストレス性の排便異常に明確な性差が発生するメカニズムを解明することを目的とする。 実験にはラットを用い、大腸運動の評価には研究代表者らが確立したin vivoの実験系を用いた。大腸内に侵害刺激を与えると、脳から脊髄に投射する下行性疼痛抑制経路が活性化され、オスでは脊髄でドパミンやセロトニンが放出され、骨盤神経を介して大腸運動が亢進することが明らかとなった。一方、メスでは大腸への侵害刺激に応答する下行性神経は、セロトニン神経とGABA神経であり、GABAが骨盤神経を活性化するモノアミンの作用に拮抗するために、大腸運動の亢進に至らないことが示された。侵害刺激に応答する下行性神経の構成は固定されたものではなく、メスでは卵巣摘出によりオス型の構成に変化すること、オスでは精巣を除去した上でエストラジオールを持続投与することでメス型の神経構成になることが判明した。このように大腸への侵害刺激に応答する神経の構成が、性ホルモンの影響で変化することをより詳細に検討するためには、下行性神経の起点となる脳の神経核を同定する必要がある。脊髄排便中枢とターゲットとなる脳神経核にアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを投与し、二重感染した神経に人工受容体を発現させる実験を行い、縫線核とA11領域が大腸運動に影響を与える神経核であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、下行性疼痛抑制系の性差を検討し、「研究実績の概要」に記載した内容をまとめた論文がAm. J. Physiol.に受理されている。このような「正常な状態で大腸運動を調節する神経回路に性差」とともに、「痛覚過敏時に大腸運動制御系に起こる変化の性差」についても検討した。 ラットの大腸内に薬剤(TNBS)を投与して大腸炎を誘発し、1週間(急性期)あるいは1ヶ月(回復後)経過したのちに、大腸運動を評価する実験を行った。急性期には下行性神経の構成に変化はないものの、恒常的な過剰応答をしているため、大腸運動が亢進し下痢となっていることが判明した。回復後は正常時と異なる神経が寄与するようになることもわかった。現在、その構成を検討しているところである。また、足底部に炎症を誘発し痛覚過敏を誘導した場合には、オスでもカプサイシンに対する大腸運動の亢進応答が誘発されなかった。この場合はGABA神経ではなくオキシトシンを伝達物質とする神経が下行性疼痛抑制系の構成要素として機能し始めることが判明した。これは、下行性疼痛抑制経路の神経成分が状況に合わせて可塑的に変化することを示す成果であり、極めて重要である。 また、縫線核とA11領域の大腸運動制御に対する重要性を追究した。2種類のAAVベクターを用いて、これらの神経核に抑制性の人工受容体を発現させた。このラットに人工受容体のリガンドであるCNOを投与したところ、大腸内へカプサイシンを投与しても、大腸運動の亢進反応は確認できなかった。また、水回避ストレスに応答した排便反射もこれらふたつの神経核の抑制により、大きく抑制された。これらの結果から、大腸の侵害刺激誘発性およびストレス誘発性の排便のいずれにも、縫線核とA11領域が寄与することが明らかとなった。 このように実験成果とその公表、次の実験へ展開するための成果等、研究は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、1)正常な状態で、大腸運動を調節する神経回路に性差があるか解明する、2)痛覚過敏を誘発し、大腸運動制御系に起こる変化に性差があるか解明する、3)特定の神経の活性化/沈静化が、大腸運動異常を是正するか雌雄それぞれで明確にする、の3つの課題を設定している。これまでの研究が計画通りに進んでいるため、このような申請書に記載した計画に大きな変更はない。最終年度は、3つ目の課題を主体とし、2つ目の課題の成果を論文として公表するための追加実験にも取り組む。 大腸の痛覚過敏は、炎症からの回復モデルを活用しているが、炎症の度合いに関する個体差が非常に大きいため、炎症のスコア化を導入しパターンに分けて解析することとする。具体的には、TNBS投与後に非常に重篤な炎症・下痢を示した群とほとんど下痢を呈することなく軽症であった群にわけ、データ処理することとする。 ストレスに関連する大腸運動亢進反応を対象とした新たな実験を立ち上げる。心因性のストレス反応として、体温上昇、心拍数や血圧の上昇などが起こることが知られているが、これらの応答には視床下部背内側核(DMH)の神経が重要な役割を果たすことが報告されている(Science 367:1105, 2020)。この報告を参考にした予備的実験では、DMHにグルタミン酸受容体アゴニストを投与すると、大腸運動が顕著に亢進することが明らかとなった。ストレスによって誘発される下痢と関連した神経回路を活性化していることが想定されるため、メスにおいても同様の実験を行い、メスの場合は便秘しやすい性質と合致した神経回路となっているかを検討する。また、痛覚過敏モデルおよびストレスモデルを用いて、縫線核とA11領域の神経に抑制性のチャネル/人工受容体を導入し、光刺激/人工リガンド投与により表現型(下痢あるいは便秘)が改善されるか検討する実験を行う。
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Research Products
(16 results)