2020 Fiscal Year Annual Research Report
新規GPIアンカー型タンパク質からわかる精子の機能分化
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20H03163
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
近藤 玄 京都大学, 医生物学研究所, 教授 (40243258)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹尾 透 熊本大学, 生命資源研究・支援センター, 教授 (10517014)
岡本 宗裕 京都大学, ヒト行動進化研究センター, 教授 (70177096)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | マウス精子 / サル精子 / 受精 / 精子表面タンパク質 / 人工授精 / 体外受精 |
Outline of Annual Research Achievements |
精子特異的かつ最も発現量の多いGPI-APは精子の機能発揮に重要であると考えるに至り、予備研究においてあらたな精子特異的GPI-AP(SpGPI-AP)を同定し、モノクローナル抗体を作製して解析を進めた。これまでの結果、精子集団は1分子の発現量の違いをもって2群(high精子とlow精子)にわかれることを示し、いっけん均一に見える精子にも役割分担があるのではないかと考えた。今年度の研究成果は、以下のとおりである。 1)以前の研究ではhigh精子とlow精子で体外受精能に大きな差はなかった。そこで、体内での受精能を検討するために、モノクローナル抗体を用いて精子集団からhigh精子を除去し、人工授精を試みた。その結果、high精子を除去すると体内での受精率が向上した。このことからhigh精子は、体内での受精に抑制的に機能していることが示唆された。 2)high精子の受精抑制性をさらに解析するために、300種類のモノクローナル抗体を用いてhigh精子の表面タンパク質の発現解析を行った。その結果、high精子では、low精子に比べて5種類のタンパク質の発現が特異的に上昇していた。このことからhigh精子はSpGPI-APのみならず複数のタンパク質が発現上昇していることがわかり、その特異性が浮き彫りになった。 3)マカク属サル精子についても300種類のモノクローナル抗体を用いて表面タンパク質解析を行った。その結果、マウスhigh精子で発現上昇しているタンパク質 のいくつかはサル精子でも上昇していることが分かった。このことから、哺乳動物に普遍的な受精制御機構が存在することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究成果から、マウスSpGPI-AP high精子の機能や特異性が明確になり、体内での受精制御機構を解明する手掛かりが得られた。また、サル精子との比較により受精制御機構が哺乳動物に普遍的に存在することが示唆された。本研究課題では当初high精子が受精の主体でありlow精子はそれをサポートすると予想したが、これに反してhigh精子は、体内で受精に抑制的に働いていることが示唆された。今後は、今回得られた研究成果を踏まえて研究の視点を変えつつ本研究課題を推進する。
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Strategy for Future Research Activity |
1)マウス精巣上体の凍結切片を用いた免疫染色では、ほぼすべての精子がSpGPI-AP発現しているが、膜表面にこれを発現しているhigh精子は全体の30~60%であり、膜表面に局在変化する分子機構の存在が示唆される。まずは、これがどのようなシグナル伝達系で誘導されるかを既知のシグナル伝達系阻害薬を用いて検討する。 2)SpGPI-APノックアウトマウスでは、high精子除去実験から受精率が向上し、産仔数の増加が見込まれるが、そのような表現型は示さなかった。このことからSpGPI-APは受精抑制の責任分子でないことがうかがわれる。そこで、SpGPI-AP high精子で特異的に発現上昇していた5種類の分子についてそれぞれのノックアウトマウスをゲノム編集法で作出し、生殖関連の表現型の解析を実施する。特にサル精子と発現上昇が共通する分子を優先的に解析し、哺乳動物に普遍的な受精制御機構の解明を目指す。
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