2021 Fiscal Year Annual Research Report
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20H03216
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
西澤 知宏 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (80599077)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | クライオ電子顕微鏡 / 構造生物学 / 膜輸送体 / ポリアミン / 神経変性疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、生理学的に重要な膜輸送体に関して、クライオ電子顕微鏡による構造解析を行うことで、輸送サイクルにおける複雑な動的構造変化を明らかにすることを目的としている。2021年度は、P型輸送体の一つでポリアミン輸送体として同定されたP5-ATPase(ATP13A2)の構造解析を行った。ATP13A2は、老化に伴う神経変性疾患の原因遺伝子として特定されたが、その機能は長い間不明であった。近年になって、この輸送体がリソソームにおけるポリアミン排出輸送体であることが明らかになり、老化に伴いポリアミン合成の低下を補うように、細胞外からの取り込み経路に関わることがあきらかとなった。ATP13A2は主に線形のポリアミンを輸送することが知られており、他のP型輸送体の基質である金属カチオンとはサイズ、形状が大きく異なることから、独自の仕組みを持つことが予想された。クライオ電子顕微鏡によって、基質が結合していない状態(E1)、および基質が結合した状態(E2)の二状態の構造が明らかになり、それらの比較から、ATPを用いた自己リン酸化に伴って、細胞内側に長細い正荷電性のトンネルが形成し、そこにポリアミンが結合することが明らかになった。さらに変異体解析を行いったところ、このトンネル内の負電荷性アミノ酸、芳香族アミノ酸がポリアミン輸送に重要であることが分かった。また、トンネル内に入ることのできるポリアミンであれば、ある程度非選択的に輸送することができると考えられた。このような広範囲にわたる相互作用は、ATP13A2の示す緩い基質認識機構に合致していることから、P5ATPaseにおけるその独自の基質認識機構の一端を明らかにするに至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
N末端にGFPを融合させたATP13A2をHEK293細胞で発現させ、GDNによって可溶化してからGFPに結合するナノボディ(単鎖抗体)を使用して精製を行った。はじめに、基質の結合していないE1状態の構造解析を行うために、ATP結合型、およびATP加水分解直後の状態に留めるため、それぞれ非加水分解ATPアナログであるAMPPCPとAlF-ADPによって構造を安定化した状態で構造解析を行った。次に、基質であるポリアミン(スペルミン)の結合したE2状態の構造解析を行うために、BeFとAlFの二つのリン酸アナログを用いて構造解析を行った。いずれの条件も基質であるスペルミンを加えて結合した状態で電子顕微鏡による構造解析を行った。E1、およびスペルミンの結合したE2の構造を比較したところ、保存されたアスパラギン酸がリン酸化されることで、Aドメインと呼ばれるATPaseに関わる領域が大きく動いており、その結果、細胞内側に長いトンネル状の溝が形成して、そこにスペルミンが結合することが分かった。このトンネル内は負荷電性、および芳香環族のアミノ酸が多く存在しており、静電相互作用、および芳香環によるカチオン-π相互作用によって認識されており、スペルミンはそのトンネルに完全にはまり込むように相互作用していたが、スペルミンより短いポリアミンに関しても同様に結合できることから、ATP13A2の示す幅広い基質選択性説明することができる相互作用様式であった。当初予定していたより多くの複数構造状態を明らかにすることができており、また、共同研究によって行った変異体解析の結果からも、ATP13A2の持つ独自の仕組みを明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はさらに、ATP13A2を含む複数輸送体に関して、動的な挙動を明らかにすることを目指す。具体的には、輸送サイクルが回りうる条件、すなわち、基質とATPが共存するような条件で精製タンパク質をインキュベートした後に、急速凍結を行いクライオ電子顕微鏡による観察を行う。このような試料を撮影した像には、異なる構造状態をもつ粒子が混在していると思われる。そこで、RELIONなどの単粒子構造解析プログラムにおけるクラス分けによって、これらの粒子を分けて解析することで、溶液条件における複雑な構造平衡を明らかにする。これらと同時に、他のP型ATPaseに関しても同的構造解析を行う予定である。具体的には脂質輸送体(フリッパーゼ)であるP4-ATPase(ATP8A1)などを予定している。特に脂質膜との相互作用が重要と考えられる場合は、ナノディスクのような疑似的な脂質環境に再構成した状態でクライオ電子顕微鏡の構造解析を行う。また、最近になって開発が進んでいるFlexible refinementと呼ばれる方法を用いることで、クラス分けを行わずに、深層学習を用いて画像から直接的に動的構造変化情報を抽出するような解析法も同時に試す。
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Research Products
(4 results)