2020 Fiscal Year Annual Research Report
Structural basis for alternating access mechanism of ABC multi-drug pump in lipid membrane
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20H03222
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
加藤 博章 京都大学, 薬学研究科, 教授 (90204487)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
潘 東青 京都大学, 薬学研究科, 助教 (50710787)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | トランスポーター / 膜タンパク質 / 立体構造解析 / ATP / 多剤耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
膜トランスポーターは、生体膜に挿入されている重要なタンパク質であり、細胞内へ栄養素を吸入したり、細胞外へ代謝廃棄物や毒性化合物を排出している。これまで多くの膜トランスポーターの立体構造が明らかにされてきたが、未だ未解明の謎として以下の疑問が残されている。すなわち、どのようなメカニズムで膜トランスポーターは、輸送に必要な動力となるエネルギーを細胞から得ているのかである。膜トランスポーターの中でもATP Binding Cassette (ABC)トランスポーターは、ATPを動力源として膜を介する能動輸送をしており、その障害は、重篤な病気を引き起こすことが知られている。 本申請は、生体防御の最終バリアーであると同時に癌の獲得多剤耐性の原因であるATP結合カセットトランスポーターABCB1が、1)非常に多種多様な化学構造の分子を排出できる能力、2)極めて効率的な基質輸送と動力獲得の化学反応(ATP結合と加水分解)を共役させて能動輸送を実現する能力に焦点を当てる。そして、それら作用に関わる多段階過程を同定しその構造研究を行う。すなわち、それぞれの反応過程の立体構造のスナップショットを撮り、基質が反応に伴い輸送されて行く過程で、トランスポーターがどのように構造変化しているのか、それらを実現する動力エネルギー供給の仕組みはどうなっているのかを探る。そして、それぞれのメカニズムに関わるアミノ酸残基を同定するとともに、立体構造基盤をX線結晶解析と電子顕微鏡を用いた単粒子解析(CryoEM)を併用することにより、それぞれの役割を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.CmABCB1の基質結合部位の解明:CmABCB1と基質との化学量論的な複合体を調製し基質の結合様式を明らかにしようと試みた。これまで最も親和性が高い基質をマレイミド化することで、CmABCB1に導入したCys残基と共有結合を形成し状態を安定化して結合しやすいアミノ酸残基の同定を実施した。さらに、ローダミンのキサンテン骨格を改変して親和性を10倍以上改善した化合物を合成し、この化合物を導入して、ローダミンとの違いを調べた。 2.交互アクセス構造変化の途中状態の捕捉と構造決定:1)蛍光分光を用いた速度論解析:M391WおよびF384W変異体を用いることでTrpの蛍光強度の変化を利用しての速度論解析を試みた。まず、ストップトフローを用いて予備的実験を行い、これら変異型トランスポーターを用いた蛍光強度変化の測定系の感度が実用的なレベルかどうかを確認した。 2) 基質-ATP-CmABCB1複合体の内向型から外向型への構造変化の捕捉:基質を捉えて排出するに至るそれぞれの立体構造を解析するために、ATPaseは通常だが基質排出ゲートが開かない変異体を用いて結晶構造解析を実施した。 3.リン脂質がトランスポーターに果たす機能調節メカニズム解明:電子顕微鏡による単粒子解析(CryoEM)研究では、界面活性剤中と脂質中の両方の試料を用いることになるため、その構造解析の過程で、界面活性剤中と脂質中の構造の違いがATPase活性に及ぼす影響を調べた。また、ナノディスクを用いてトランスポーターを脂質中に挿入した試料を調製することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
新規に合成された阻害剤との複合体の結晶を調製することに成功した。この結晶を用いた分子構造の決定は順調に進んでおり、早期に構造決定が修了できるものと期待される。また、基質結合経路の可能性がある分子表面にシステイン残基を導入することで、多様な化学構造の基質の輸送経路を同定する実験系を構築することができた。基質の部分構造の違いが相互作用にもたらす影響を定量することが可能になったことから、さらに化学構造の異なる基質を用いて、結合力の違いを明らかにすることで、当初の計画よりも詳しい基質認識メカニズムが明らかになるものと期待される。 一方、ストップトフローを用いての速度論的解析では、検出感度に問題があることが判明した。したがって、他の方法も試すこととする。 さらに、ナノディスクに挿入したトランスポーターの調製に成功し、CryoEMの予備測定では、構造解析に至る可能性の高い試料であることが判明した。今後は、この試料を用いて、反応途中の立体構造の捕捉に可能性を見出す予定である。
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