2020 Fiscal Year Annual Research Report
ゲノム分配を保障するセントロメアクロマチン構造の構築・変換メカニズム
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20H03236
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
堀 哲也 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (70550078)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | クロマチン / ゲノム / 染色体 / セントロメア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、細胞内におけるセントロメアクロマチンの構造をヌクレオソーム単位で解析し、これまで未解明であった細胞周期に依存したクロマチン構造の変化を基盤としたセントロメア機能を制御する仕組みと、クロマチン構造変換の生物学的な意義の解明を目指している。令和2年度において、以下2つの項目について研究を行なった。 細胞周期を同調したDT40細胞を用いて、セントロメアクロマチンの凝縮度とヌクレオソームレベルでの3次元配置の解析に向けて、1)セントロメアのエピジェネティックマーカーであるCENP-Aが取り込まれるG1期の細胞集団の回収法の確立と、2)ATAC-seq法の最適化を行なった。 1)G1期の細胞集団の回収法については、微小管形成阻害剤及び、M期チェックポイントの制御因子の阻害剤を利用する実験系で行なった。これら薬剤処理により、効率的にG1期の細胞を回収する方法を確立した。さらに、これらG1期の細胞集団に対してSNAPアッセイ法を行い、正確なCENP-Aの取り込み時期を特定した。 2)セントロメアのクロマチンの凝縮度の解析に適したATAC-seq法の最適化については、まず、ATAC-seq法で用いるTn5酵素を大腸菌内で発現させ、各種カラム処理により高純度に精製を行なった。この精製Tn5を使用し、各種条件下でATAC-seq法を行ない、クロマチンの凝縮度の分布を染色体腕部とセントロメア領域で比較解析を行なった。その結果、セントロメア領域の凝縮度を効率よく検出するTn5酵素量と反応条件を決定した。 上記、Tn5酵素の精製は、東京大学の胡桃坂仁志教授の協力のもと行なった。また、ATAC-seq法の次世代シーケンサーによる解析は、国立遺伝学研究所の豊田敦特任教授の協力のもと行ない、情報解析は国立遺伝学研究所の池尾一穂准教授の協力により行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究期間中に明らかにする点として「セントロメア機能を制御する仕組みにおける、細胞周期に依存したクロマチン構造の変化とその生物学的な意義」の解明を挙げた。この研究目標に関連して、これまで、複数の薬剤を用いた細胞周期の同調法を適用し、ニワトリDT40細胞におけるCENP-Aの取り込み時期の特定と、その特定時期の細胞集団を回収する方法を確立した。さらに、クロマチンの構造解析の手法の1つであるATAC-seq法について、使用する酵素の高純度精製および反応条件の最適化により、セントロメア領域のクロマチン凝縮度の変化を高感度に検出する系を構築した。これら同調法とクロマチン構造の解析法を組み合わせることで、研究目標であるセントロメアのクロマチン構造の変化とその意義の解明に向けた有効な技術として適用できる。 また、これら研究と並行して行なった解析により、CENP-A特有なシャペロンタンパク質HJURPとCENP-Aとの結合に必須な双方のアミノ酸残基を発見した。さらに、その配列の保存性から、生物種で異なるCENP-A-HJURPの結合様式の存在と重要性を明らかにし、論文として報告した(Hori et al., Cell Rep., 2020)。この生物種によるHJURPとCENP-Aの相互作用様式の違いの意味は不明だが、CENP-Aがクロマチンへ取り込まれる際の効率や正確性との関連が示唆された。本成果は、研究目標であるセントロメアのクロマチン構造の変化とその意義の解明に寄与する重要な発見である。 以上の理由により、概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度に確立したG1期の細胞集団の回収法と、セントロメアクロマチンの解析に最適化を行なったATAC-seq法を適用し、細胞周期のM期からG1期を含む範囲で、セントロメアのクロマチン構造の変化とその分子メカニズムを調べる。以下2項目について研究を推進する。 1)セントロメアクロマチンの高次構造の解析 細胞周期を同調したニワトリDT40細胞を用いて、ATAC-seq法を行ない、セントロメアクロマチンの凝縮度を解析し、セントロメア領域のクロマチン構造のモデル化を行なう。特にM期とG1期のクロマチン構造の比較を行ない、クロマチン構造の変換を解析する。具体的には、DT40細胞を用い、主に薬剤を使用した方法を適用し、M期とG1期の細胞集団を取得する。これら細胞集団を利用して、令和2年度に確立したATAC-seq法を適用してセントロメア領域のクロマチン凝縮度を定量的に解析する。Hi-CO法については、実験手法の最適化を引き続き検討する。 2)セントロメアクロマチン構築の分子メカニズムの解明 各種セントロメアタンパク質遺伝子のノックアウト細胞株を用いて、ATAC-seq法を行ない、セントロメア領域のクロマチン構造へ与える影響を解析し、セントロメア領域のクロマチン構造の形成に必須な因子を同定する。具体的には、オーキシン分解系ノックアウトシステムを適用したノックアウト細胞株を利用する。各種ノックアウト細胞のセントロメアのクロマチン構造の特徴を正常細胞と比較し、クロマチン構築を制御する仕組みを調べる。さらにこれら変異株について、染色体分配機能およびCENP-Aのクロマチンへの取り込み活性への影響も解析し、クロマチン構造との関連を調べる。ATAC-seq及びHi-CO法の次世代シーケンサーによる解析および情報解析は、国立遺伝学研究所の豊田敦特任教授および池尾一穂准教授の協力を仰ぐ計画である。
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