2020 Fiscal Year Annual Research Report
植物の移行性mRNAの輸送機構および機能に関する研究
Project/Area Number |
20H03273
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
野田口 理孝 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 准教授 (00647927)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒谷 賢一 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 特任講師 (10402778)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 全身性シグナル伝達 / 移動性mRNA / 移動性シス配列 / RNA結合蛋白質 |
Outline of Annual Research Achievements |
多細胞生物は、個々に機能分化した異なる器官、異なる組織が協調して働くことで、個体レベルの機能をより適切に発揮させていると考えられる。植物の全身性シグナル伝達は、篩管や道管を介した植物ホルモン、small RNA、mRNA、ペプチド、タンパク質等の分子送達で果たされていることが知られ、花成や栄養飢餓応答、乾燥ストレス応答等が全身的に制御されていることが明らかとなってきた。本研究では、それらの全身移行性分子のなかでも、生物学的な意義が未だに不明であるmRNAについて、その輸送の分子機構と植物の発生成長における働きを明らかにすることを目的として研究を行なった。これまでに、輸送の分子機構としてmRNAに移動性を付与するシス配列および結合タンパク質を同定してきた。シロイヌナズナと近縁種の接木を行い、偽陽性の低い検出法でシロイヌナズナ穂木由来の移動性mRNAを同定した。得られた移動性mRNAの配列情報から独自のプログラムを用いて移動性mRNA にエンリッチされたモチーフの抽出を試み、シロイヌナズナ移動性mRNAの94%に認められる配列の抽出に成功した。トマトについても同様の方法で、異種接木、移動性mRNAの同定、移動性mRNA にエンリッチされたモチーフの抽出を行ったところ、まったく同様の配列がトマト移動性mRNA に認められることが分かった。同定されたモチーフ配列をGUSレポーター遺伝子に融合して、植物での移動生を調べたところ、GUS mRNAの移動性が示唆される結果を得た。以上より、植物に保存されたmRNAの移動に関与するシス配列を同定することができた可能性が高い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでに、輸送の分子機構としてmRNAに移動性を付与するシス配列および結合タンパク質を同定してきた。シロイヌナズナと近縁種の接木を行い、偽陽性の低い検出法でシロイヌナズナ穂木由来の移動性mRNAを同定した。得られた移動性mRNAの配列情報から独自のプログラムを用いて移動性mRNA にエンリッチされたモチーフの抽出を試み、シロイヌナズナ移動性mRNAの94%に認められる配列の抽出に成功した。トマトについても同様の方法で、異種接木、移動性mRNAの同定、移動性mRNA にエンリッチされたモチーフの抽出を行ったところ、まったく同様の配列がトマト移動性mRNA に認められることが分かった。同定されたモチーフ配列をGUSレポーター遺伝子に融合して、植物での移動生を調べたところ、GUS mRNAの移動性が示唆される結果を得た。同定されたモチーフ配列をGUSレポーター遺伝子の前後に付加したコンストラクトを用意し、細胞間移行するかを葉の表皮へのボンバードメント法により評価した。その結果、モチーフ配列を付加しないGUSレポーターの場合は、単一の細胞でGUS染色されるのに対し、モチーフ配列を付加したGUSレポーターの場合は、導入された細胞だけでなく近接する細胞においてもGUS染色が確認された。この結果は、本来は細胞自律的な挙動を示すGUSレポーターが、モチーフ配列の付加により、葉の表皮において細胞間移行したことを表す。さらに、同様のコンストラクトを形質転換したシロイヌナズナを作出し、マイクログラフティング法によって地上部から根への長距離移行を検出した。以上の結果より、植物に保存されたmRNAの移動に関与するシス配列を同定することができた可能性が高い。この結果は、当初計画していた以上の結果であり、飛躍的な進展があった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに同定したmRNAの移動に関与するシス配列は、その配列から既知のRNA結合タンパク質と結合することが推察された。そのため、そのRNA結合タンパク質がmRNAの輸送を助けている可能性がある。そこで、今後の予定として、まずは同定されたシス配列と結合の予想されるRNA結合タンパク質を実験的に調整し、生化学的なin vitroな手法で両者の結合を確認することにする。結合が確認できれば、植物体内での結合について評価することを検討する。mRNAの輸送機構が明らかになれば、その情報から移動性mRNAの機能を理解していくことができる。 さらに、移動性mRNAの生物的機能を問うため、移動性シス配列をシロイヌナズナとトマトのいずれにおいても保存されている遺伝子を探索し、それらに着目して機能変異体および移動性を喪失した変異体を作出して解析を行う。移動性mRNAの発現領域を明らかにするため、部位別の遺伝子発現解析や遺伝子のプロモーターにレポーターを付加したレポーターコンストラクトなどを用いた解析も行なっていきたい。 新たに推測されたトランス因子に着目した研究と、移動性mRNAそのものに着目した研究を進めることで、輸送されたmRNAの機能について包括的に捉えていく。
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