2020 Fiscal Year Annual Research Report
助細胞胚乳融合の変異体を利用したシロイヌナズナ多精拒否機構の研究
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20H03280
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
丸山 大輔 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 助教 (80724111)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 花粉管 / 多花粉管拒否 / 多精拒否 / 卵細胞 / 中央細胞 / 助細胞 / 助細胞胚乳融合 / 重複受精 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではシロイヌナズナの受精後に花粉管を受け入れなかった方の助細胞(残存助細胞)が受精した中央細胞(胚乳)と細胞融合する現象である助細胞胚乳融合の発生学的意義を見出すため、助細胞胚乳融合を欠損するシロイヌナズナの変異体を取得し、その原因遺伝子の解析を行ってきた。最初に同定したCTL17はE3ユビキチンリガーゼをコードしていた。蛍光タンパク質のmNeonGreenを融合したCTL17のレポーターラインの解析から、CTL17が未受精の胚珠で発現せず、受精直後から初期胚乳で強く発現してサイトゾルと細胞核に局在することが示唆された。ctl17以外にも助細胞胚乳融合率が低下する変異体2系統について、戻し交配を5回行った後のF3世代のゲノム解析から、それぞれ数個の遺伝子を原因遺伝子の候補として絞ることができた。 受精の胚珠の花粉管誘引停止に異常を示すエチレン応答経路の二重変異体ein3 eil1では、高頻度に誘引される二本目の花粉管内容物が胚乳へと到達するDEAD-End現象が観察される。助細胞胚乳融合が残存助細胞と胚乳の間に通り道をつくることを証明するため、ein3 eil1 ctl17の三重変異体の取得を試みたが、エチレン応答欠損による稔性低下の影響で得られなかった。ein3 ctl17二重変異体でも二本目の花粉管誘引が高頻度に見られたが、残存助細胞の機能低下のためかDEAD-End現象はほとんど観察されなかった。 DEAD-End現象が抑圧された状態で二本目の花粉管から放出された精細胞が受精領域へ輸送されると仮定されると、ctl17変異体では卵細胞が二回受精する多精が起こりやすい状況にあると予想される。多精が起こると2種類の父親からゲノムを受け継いだ3倍体植物の種子が得られるため、これを検出するために種子にVenusおよびmRUBY2を蓄積するマーカーラインを整備した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
助細胞胚乳融合率が低下する変異体の原因遺伝子の同定が完了し、発現組織や細胞内局在など、基礎的な因子解析が進展した。それととともに、新規の変異体の同定もあと一歩で完了する段階まで到達している。これらの知見はシロイヌナズナにおける受精以外の細胞融合現象の分子メカニズムを理解するために重要な意味を持っている。 DEAD-End現象における助細胞胚乳融合の役割の解析では、ein3 eil1 ctl17の三重変異体の取得がうまくいかなかったことで遅延が生じたが、現在はein3 eil1 ctl17三重変異体の代わりにein2-5 ctl17二重変異体の構築が進展している。また、ein2-5 ctl17二重変異体の構築後にDEAD-End現象の抑圧による多精頻度の上昇の解析がすぐ行えるように、多精検出のマーカーラインがすでに整備されている。以上の状況を鑑み、今後もほぼ予定通りのペースで解析ができる予定であるため、概ね順調に研究が進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ctl17変異体以外の助細胞胚乳融合欠損率が低下した変異体は、原因の候補となる遺伝子がクローニング済みであり、変異体への導入が進められている。得られた形質転換体の助細胞胚乳融合欠損率の回復を調べる。同時に、これら候補遺伝子をCRISPR/CAS9によるゲノム編集で破壊するプラスミドも構築中であり、助細胞胚乳融合の欠損率上昇が見られるか調べる。これらの解析を合わせることで原因遺伝子の同定を目指す。 ein2-5 ctl17二重変異体が構築できた後は、野生株、ein2-5単独変異体、ctl17単独変異体、ein2-5 ctl17二重変異体の雌しべにプラスチドをmRUBY2でラベルした花粉を授粉することで、それぞれのDEAD-End誘導率を解析する。これまでの状況証拠からはein2-5単独変異体が示す高頻度のDEAD-Endがein2-5 ctl17二重変異体ではほとんど見られなくなると推測される。このようなctl17によるDEAD-Endの抑圧が明らかになった場合、多精についての影響も解析する。具体的には野生株、ein2-5単独変異体、ctl17単独変異体、ein2-5 ctl17二重変異体の雌しべに対して、2020年度に構築した多精検出のための2種のマーカーラインの花粉を二重授粉する。1本目と2本目での異なる遺伝子型の花粉管を受け入れて多精が生じた場合、得られた3倍体の種子はそれぞれの精細胞から伝達される遺伝子発現により、VenusとmRUBY2の両方の蛍光タンパク質のシグナルが観察される。ctl17によるDEAD-Endの抑圧によって2本目の花粉管から放出された精細胞が受精領域へと送られたなら、ein2-5 ctl17二重変異体で多精頻度が上昇すると推測される。
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Research Products
(5 results)