2020 Fiscal Year Annual Research Report
Analyses of Kenyon cell type diversification in hymenopteran insect brains and its relationship with behavioral evolution
Project/Area Number |
20H03300
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久保 健雄 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10201469)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ミツバチ / 社会性昆虫 / ハチ目昆虫 / キノコ体 / ケニヨン細胞 / ゲノム編集 / 連合学習 / Mblk-1/E93 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は2013年に、ミツバチの脳高次中枢であるキノコ体が、従来考えられてきた「大型」と「小型」のケニヨン細胞に加えて、mKastを選択的に発現する「中間型」の、3種類のケニヨン細胞サブタイプから構成されることを見出した(Kaneko et al., PLoS ONE)。さらに2017年には、ケニヨン細胞サブタイプの種類が、ハチ目昆虫の、単独性(ハバチ)→寄生性(有錐類)→営巣性(有剣類)という行動進化に伴って、1つ→2つ→3つへと増加したことを報告した(Oya et al., Sci. Rep.)。このことは、ケニヨン細胞サブタイプの種類の増加が、行動進化の神経基盤となった可能性を暗示している。そこで本研究課題では、「ミツバチに存在する3種類のケニヨン細胞サブタイプはどのような行動や脳機能に関連し、どのように進化してきたか」という学術的「問い」を解明するため、(1) ハバチと寄生蜂のキノコ体のケニヨン細胞サブタイプが、ミツバチのサブタイプのどれに対応するか解明する。(2) ミツバチとアリ、寄生蜂、ハバチについてmKast ノックアウト個体を作出し、行動や脳機能への影響を調べる。(3) ミツバチのサブタイプ選択的に発現する転写因子の標的遺伝子をChIP-seq解析により同定し、標的遺伝子を他昆虫種と比較する、ことを研究目標としている。(1)については、ハバチのケニヨン細胞が、ミツバチの大型ケニヨン細胞に相当する可能性を示した(論文準備中)。(2)については、既報に従ってハバチでRNAiによる遺伝子ノックダウンに成功したが、ミツバチでのゲノム編集は未だ検討中である。(3)については、大型ケニヨン細胞選択的に発現する転写因子Mblk-1/E93のクロマチン免疫沈降法を実施し、Mblk-1/E93が蛹期と成虫期では標的遺伝子を転換することを発見した(論文準備中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)の課題については、単独性で原始的なカブラハバチについて、ミツバチ脳でケニヨン細胞サブタイプ選択的に発現する遺伝子のホモログの発現解析を行った。その結果、ミツバチでは大型ケニヨン細胞選択的に発現するCaMKIIがキノコ体全体で選択的に発現する一方で、ミツバチの中間型と小型ケニヨン細胞でそれぞれ選択的に発現するmKastとMblk-1 については、脳全体で一様に発現することが判明した。このことから、ハバチの持つ1種類のケニヨン細胞は、ミツバチの大型ケニヨン細胞に相当する可能性が示された。また、カブラハバチを用いた連合学習系の構築に初めて成功し、RNAiによりCaMKIIをノックダウンすることで、CaMKIIがハバチの連合学習に重要な役割を担うことを示した。 (2)については、ミツバチにおけるゲノム編集技術を完成させるべく、実験を続けている。現在は、ゲノム編集した変異体雄蜂と、ヘテロ変異体女王蜂の作出に成功しているので、前者の変異精子を用いて後者を人工授精させることにより、ホモ変異体働き蜂の作出を試みている。(3)については、ミツバチ成虫のキノコ体の大型ケニヨン細胞選択的に発現する転写因子Mblk-1/E93についてChIP-seq解析を行った。E93は昆虫の変態期にエクダイソン(脱皮ホルモン)により一過的に誘導されて変態期の形態形成に重要な役割を担うが、ミツバチでは成虫脳でも恒常的に発現する点で異なっている。ChIP-seq解析の結果、ミツバチでは蛹期と成虫脳ではMblk-1の標的遺伝子が異なっており、成虫期ではCaMKIIなどの記憶・学習に働く遺伝子の転写に関わることが判明した。このことは、ミツバチでは、元来、変態期に利用されていた転写因子が記憶学習関連遺伝子の転写に関わることで、ミツバチの高度な記憶学習能力の神経基盤になった可能性を示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)については、論文準備中である。今後は、ハチ目昆虫の進化段階で中間的な位置にある寄生蜂についても、同様な解析を行う予定である。(2)については、十分な数の変異雄蜂とそれ由来の(凍結)精子を得ることが課題である。未受精卵の段階でゲノム編集を施して成虫になった雄蜂幼虫は、野生のコロニーに返すと働き蜂によって排除されてしまうため、生存個体数が少なくなる。多くのゲノム編集を施した雄蜂幼虫を生育させることで、多くのゲノム編集雄蜂を採集する必要がある。(3)についても論文準備中である。今後は、小型ケニヨン細胞選択的に発現するエクダイソン受容体(EcR)についても同様なChIP-seq解析を行う予定である。EcRは昆虫の変態を司る中心的な転写因子であるが、その機能転換(標的遺伝子の転換)により、ミツバチの脳機能や行動進化がもたらされた可能性を検証する予定である。
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