2020 Fiscal Year Annual Research Report
Diversity and spatio-temporal dynamics of pore system in Ostracoda —Adaptation and evolution of sensory perception—
Project/Area Number |
20H03309
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
塚越 哲 静岡大学, 理学部, 教授 (90212050)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 雄太郎 静岡大学, 理学部, 准教授 (50345807)
中尾 有利子 日本大学, 文理学部, 准教授 (00373001)
山田 晋之介 国際医療福祉大学, 医学部, 助教 (30772123)
蛭田 眞平 独立行政法人国立科学博物館, 分子生物多様性研究資料センター, 特定非常勤研究員 (80624642)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 感覚受容器 / 貝形虫 / 節足動物 / 進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
Bicornucythere bisanensisの背甲に開口するポア・システム(感覚受容器)の種類と数,分布を調べ,5種類に分類した.中でも「花弁型」のポア・システムは数が少なく,分布位置も安定していた.三浦市油壷湾産の雄個体群には,交尾器の形態が4タイプに分かれることが前年度明らかにされたが,花弁型ポア・システムも分布配置が4タイプに分かれ,各々の交尾器形態群に対応している一方,雌個体群ではこのようなタイプは存在しないことが確かめられた.このことはそれぞれの雄交尾器の形態によって交配の頻度が異なっている可能性を示唆する. 千葉県成田市の水田にて採集したHeterocypris incongurensのポア・システムの観察をSEMおよびTEMを用いて行った.SEMでは,感覚毛の長さと分布様式から少なくとも3種類のポア・システムを確認した.これらをTEMで観察したところ,含有する受容細胞の数が1-4と異なっており,少なくとも2種類以上が存在することが明確に捉えられた. 伊豆半島下田の潮下帯上部から遺存的分類群であるSigillidae科の貝形虫類が得られた.表面がなめらかでやや細長い卵形の背甲,左右非対称で右殻より左殻が大きいこと,丸く集合した細かい閉殻筋痕,蝶番の特徴から,Saipanetta属の未記載種と判断した.潮下帯上部は,Saipanetta属では最も浅い産出記録である.この標本については現在ポア・システムの形態と分布を含め記載中である. 多足類・ヤマトタマヤスデにおいて,「庇」構造表裏面の起伏と感覚毛の配置の対応関係を検討したところ,瘤状や条線の隆起構造と感覚毛を伴う溝状構造が「庇」の重なり程度を感知できる構造的な対応関係にあることを見出した.三葉虫類においても同様の構造が認められることから, この構造が節足動物の適応放散に大きく貢献していたと結論づけられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍での外出制限によって,フィールドワークの遅れが目立った.また予定されていたフランスでの貝形虫類の国際会議が1年延期となり,2022年7月となった.後半は感染対策を実施しながらフィールドワークを行ったが,やはり人数・日数の制限などから当初の予定を完全に達成することはできなかった.分子系統解析については,研究分担者(蛭田)が大きく進め,Podocopida全体の系統関係を明らかにするため核rRNA遺伝子とミトコンドリアゲノム全長配列の決定を行い,その結果Cytheroidea上科とCyprididae科の一部において著しいミトコンドリアゲノムでの遺伝子配置に変異があることが明らかとなった.この成果は現在投稿準備中である.一方,共同で作業する研究は,やはりコロナ禍での制限によって進捗が大きく遅れた. 国内の学会等での研究成果公開は,ズームによって参加し,日本古生物学会例会,日本動物分類学会大会,日本ベントス・プランクトン合同大会等でシンポジウムや個人講演として発表した.
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Strategy for Future Research Activity |
左右非対称な背甲を持つ貝形虫類は,遺存的な分類群に多く見られる.そして開殻・閉殻の感知にはポア・システムが必ず関与していると思われる.そこで今年度は特に遺存的分類群である上科Bairdioidea(属Neonesidea,Tribelina, Anchistrocheles),上科Cytheroidea(属Terrestricythere),上科Sigillioidea(属Saipanetta)を中心に,殻の開閉とそれを感知するポア・システムについて基礎的な知見を得る. 同時にこれらの分類群は,他の分類群で開殻時に使う大顎底節の伸長部分を発達させていないという共通点がみられるため,別の開殻システムを使っていると考えられる.どのようなシステムで開殻を行うのか,その構造と付属肢の動きを観察することから解明したい.これがわかれば,貝形虫類がどのようなシステムの変遷を経て改革を行ってきたかの進化的経緯が明らかになり,かつそれを感知するポア・システムの進化も明らかになると考えている. また,コロナ禍から徐々に行動制限が解除される中で,感染対策を徹底し,フィールドワークの遅れを取り戻し,フランスでの貝形虫国際会議はじめ国内の学会大会等でも研究成果の公表を行う.
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