2020 Fiscal Year Annual Research Report
交尾器形態の差異はどのような種分化段階から現れるのか:小型蛾類を用いたアプローチ
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20H03312
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
大島 一正 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (50466455)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 種分化 / 幼虫の生育適性の分化 / 成虫の産卵選好性の分化 / バーコーディング領域の分化 / ゲノムワイドな分化 / 配偶システムの分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本国内に分布するホソガ科で,ミトコンドリア COI 遺伝子のバーコーディング領域の分化と交尾器形態の分化に不一致が見られる集団(種)内と集団(種)間での交配実験を行い,配偶行動の互換性と実験後のメス交尾器における精包の有無を調べた。交尾器に形態差が見られない組み合わせでは,COI の分化が大きな組に関して,形態差と COI のどちらがより交配能力の互換性と相関があるかを調べた。ただし 2020年度は,SARS-CoV2 の影響で野外調査(他の都道府県や海外)が制限されたため,研究機関である京都府立大学の周辺でも採集できる,「フジホソガ種群のフジ上集団とアサ科(ムクノキ,アキニレ,ケヤキ)上集団」を中心に実験を行った。その結果,交尾器には通常分類学者が記載分類時に別種相当と認めるほどの形態差が見られない集団間でも,有意に交配率が下がる交雑組み合わせが見られることと,交雑の起こりやすさに非対称性が見られることがわかった。また,暗視野カメラを用いて配偶行動の開始時刻などを暗期に調べる手法を確立した.さらに,ゲノムワイドな分化を RAD-seq を用いて調べたところ,地域間よりも幼虫時に利用していた植物分類群ごとに単系統群が見られる傾向があったため,これらの寄主上集団間にはある程度明瞭な遺伝的分化がみられることが示唆された。また,両集団におけるメスの産卵選好性を調べたところ,それぞれが普段利用している寄主植物へ特化していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SARS-CoV2 の影響で野外調査(他の都道府県や海外)が制限されたため,当初計画していた近縁種群を予定通り実験できているわけではないが,代表者が所属する研究機関である京都府立大学の周辺でも採集できるフジホソガ種群に特に集中して研究を行なっており,暗視野カメラによる夜間の行動の確認や全ゲノム増幅による RAD-seq といった新たな研究手法の開拓により,限られた材料からでも十分に興味深い結果が得られているため。
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Strategy for Future Research Activity |
暗視野カメラの導入により,これまで暗期に行われているために十分な行動観察ができていなかった配偶行動に関して,具体的にどの段階で交配が妨げられているのかを確認できるようになったため,単なる交配率の比較を超えて配偶行動の分化をより詳細に集団間で調べていく予定である。また,小型のホソガ科であっても,効率的な全ゲノム増幅の手法が整備できたことで,フジホソガ種群以外の近縁種や集団間でも RAD-seq 等の NGS を用いた解析を行なっていく予定である。
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Research Products
(5 results)