2021 Fiscal Year Annual Research Report
交尾器形態の差異はどのような種分化段階から現れるのか:小型蛾類を用いたアプローチ
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20H03312
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
大島 一正 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (50466455)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 種分化 / 交配前隔離 / 配偶行動 / 形態計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度と同じく,SARS-CoV2 の影響で野外調査 (他の都道府県や海外) が制限されたため,所属研究機関が所在する京都とその周辺で,フジホソガのフジ上集団とアサ科 (ムクノキ)・ニレ科 (アキニレ,ケヤキ) 上集団を用いた実験を重点的に行った.ただし,サンプリングに好適な時期に緊急事態宣言が解除されていた2021年の4月上旬に,1度だけ沖縄県にてフジホソガの採集を行い,同地方のみに分布するサキシマフヨウ上集団とウジルカンダ上集団を得ることができた.その結果,昨年度に確立した暗視野行動観察システムを用いて,フジホソガに含まれる4つの寄主上集団に関して,配偶行動が生じる時間を調べることに成功し,フジホソガ種内で交配時間がどのように変遷してきたのかを,系統解析の結果と合わせて推定することに成功した.さらに,4つの寄主上集団間のうち,フジ上集団とアサ科・ニレ科上集団間,サキシマフヨウ上集団とウジルカンダ上集団間での交雑実験を行い,系統的距離としては一般的に別種相当とみなされる集団間においても,依然としてある程度交配が生じることがわかった.また,フジ上集団とアサ科・ニレ科上集団間に関しては,オス側のメス性フェロモンへの反応性とオスのアプローチ時におけるメスの許容しやすさに重点をおいた暗視野カメラ観察も行い,異集団間で交配率が低下する原因を特定することに成功した.これらに加えて,フジホソガに含まれる4つの寄主上集団間に何らかの形態的な分化が蓄積しているかどうかを検証するため,前翅の翅脈とオス交尾器を用いた形態計測を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SARS-CoV2 の影響で野外調査 (他の都道府県や海外) が引き続き制限されていたが,フジホソガのサキシマフヨウ上集団とウジルカンダ上集団のサンプリングに好適な時期に緊急事態宣言が解除されていたため,2020年度は得られなかったこれらのサンプルが得られたため.その他,2020年度に確立した暗視野行動観察システムを用いたより詳細な行動解析や,2021年度より新たに取り組んだ形態計測が順調に進んでおり,研究に利用できる種数には依然として制約があるものの,利用できる種に関してはかなり詳細に解析が進んでいるため.
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Strategy for Future Research Activity |
暗視野カメラによる行動観察システムが良好に機能しているため,例えば,フジ上集団とアサ科・ニレ科上集団間の交配において「フジ上集団のメス1頭とフジ上集団のオス1頭,そしてアサ科・ニレ科上集団のメス1頭」のようなデザインの交配実験を行い,この場合であれば,フジ上集団のオスがどちらのメスに最初に反応するか,そして最終的に交配するのはどちらのメスか,といった選択交配実験を行い,交配前隔離の発達状況をより詳細に検証する.また,2021年度に形態計測が完了しているフジホソガ個体の RAD-seq を行い,形態の分化とゲノムの分化の程度を比較する.これらに加え,2022年度はこれまで研究に加えることができていなかったクズホソガなどの種についても,サンプリングを行い,RAD-seq での解析を行う予定である.
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