2022 Fiscal Year Annual Research Report
地下圏における炭素循環:微生物によるリグニン様物質からのメタン生成プロセスの解明
Project/Area Number |
20H03314
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
石井 俊一 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭研究開発プログラム), 副主任研究員 (10556913)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 志野 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 准教授 (10557002)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | メタトランスクリプトーム / 天然ガス鉱床 / 地下圏微生物 / Bathyarchaeota |
Outline of Annual Research Achievements |
嫌気環境における炭素循環の最終生成物であるメタンは、微生物群集が協調し、有機物が多段階で分解することで生成される。中でも地下圏においては、地質学的時間の中で、リグニンやフミン酸といった難分解性有機物が、炭素源・エネルギー源となると推定される。この微生物代謝が介する一連のメタン生成反応は、地球の炭素循環はもとより、メタンハイドレートや天然ガス鉱床形成においても重要な役割を果たすと考えられているが、その反応が地下深部で起こること、地下圏には未知の微生物系統群が多く存在することから、理解が未熟である。そこで本研究では、地下圏に普遍的にみられる難分解性有機物からのメタン生成プロセスの解明を目指す。 本年度は、地表の天然ガス田湧出地下水中および分離槽に形成されるバイオフィルムの微生物群を対象としたRNAシーケンスを行った。対象として、5つのガス田の湧出地下水、およびそのメタンガス分離槽の壁面に形成されるバイオフィルムを用いた。そのうち、分離槽のバイオフィルムに存在する嫌気的メタン酸化古細菌(ANME菌)は、酸化鉄などの固相への電子輸送に関連するマルチヘムシトクロームCが多く発現している事が分かり、湧出地下水中に溶存しているメタンを利用して、異化的鉄還元反応を行っていると考えられた。 また、地下圏におけるリグニン由来の難分解性有機物分解微生物の候補であるBathyarchaeotaを多く含む集積系の遺伝子発現解析を進め、この古細菌は、今までに知られているメトキシ化合物の脱メチルを担う酵素群(Mto)を利用していない事が分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、地表の天然ガス田湧出地下水中の微生物群を対象とした網羅的メタオミクス解析を進め、南関東ガス田の異なる層準、異なる位置から採掘されている5つのガス田における、湧出地下水中および分離槽のバイオフィルムのメタトランスクリプトーム解析を行った。これにより、実環境中での各構成微生物の遺伝子発現解析を進める準備が整い、いくつかの微生物ではその代謝機能を明らかにすることができ、本項目に関しては当初の予定通りである。 さらに、リグニン由来の難分解性有機物中間代謝産物として、シリンガ酸、バニリン酸を基質とした集積培養系で見られた芳香族メトキシ化合物を分解すると考えられている古細菌(Bathyaechaeota)について、培養および解析を進めた。本培養系での芳香族メトキシ化合物の分解プロセスを明らかにするため、RNAシーケンスを行い、Bathyarchaeota古細菌の遺伝子発現プロファイルを得ることに成功し、その代謝システムの解明に向けての解析をスタートした。これにより、地下圏における主要な未培養系統の一つであるBathyarchaeotaの理解が進むと考えられ、当初計画の通りに進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
南関東ガス田の異なる層準から天然ガスを採取している5個の異なる井戸に生息している、湧出地下水中の地下圏微生物群と井戸壁面に形成されたバイオフィルム中の地下圏微生物群中の各優占微生物のドラフトゲノム(Metagenome assembled genome; MAG)を対象として、RNAseqを用いた遺伝子発現解析を進める。これにより、各微生物が、環境中でどのような代謝機能を果たしているのかを明らかにし、地下圏微生物生態系内での代謝ネットワークを構築する。 並行して、シリンガ酸・バニリン酸を用いた集積培養中の未培養系統門Bathyarchaeotaに属する微生物種の単離を試みる。本年も、抗生物質を用いて、古細菌以外のバクテリアの排除培養に挑戦する。同時に遺伝子発現プロファイルから、代謝システムの構築を行い、Bathyarchaeotaが、どのように芳香族メトキシ化合物を分解しているのかを推定する。
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