2021 Fiscal Year Annual Research Report
珪藻のウイルス弱毒化因子は,珪藻個体群の維持システムとして機能するのか?
Project/Area Number |
20H03327
|
Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
木村 圭 佐賀大学, 農学部, 准教授 (30612676)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長里 千香子 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (00374710)
和田 啓 宮崎大学, 医学部, 准教授 (80379304)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 珪藻 / ウイルス / 弱毒化因子 / ウイルス生理学 / ウイルス生態学 |
Outline of Annual Research Achievements |
「海の牧草」と称され、海洋資源生物として重要な『珪藻』は、常に強毒ウイルスによる死滅の危機に曝されている。ところが我々研究チームは、珪藻に感染する強毒ウイルスの働きを抑える『弱毒化因子』を発見した。この弱毒化因子は、珪藻 vs 強毒ウイルスの関係性に関与して、珪藻細胞内での強毒ウイルス複製を抑制すると考えられる。さらに、強毒ウイルス蔓延を抑え、珪藻個体群が生残する生態システムの一つとして機能している可能性も考えられる。本研究では、地球上で巨大生産力を誇る珪藻が、強毒ウイルス感染による死滅から回避する戦略の一端として、この弱毒化因子が関与しているのかを生理生態学的に理解することが目的である。 令和3年度は、弱毒化因子の関与によって、珪藻 vs 強毒ウイルスの関係に生じる変化(課題1:形質・発現遺伝子の変化、課題2:構造・形態の変化)を室内実験で解明することに主に取り組んだ。強毒ウイルス株に混在する弱毒化因子を探索するため、DNAウイルス株に存在する弱毒化因子DNA配列を高感度nested PCRにて検出した。その結果、274株のDNAウイルス株中29株から未知DNA因子を検出した。これらの株について、弱毒化因子が存在するウイルス株の違いによって、弱毒化因子DNA配列がどのように異なるのかを解析した。その解析の結果、弱毒化因子は珪藻DNAウイルスと関連を持って存在しており、機能的に保存されるORF領域と、強毒ウイルスに依存するDNA領域の2つを持っていることが示唆された。また、今後研究で使用する弱毒化因子を特異的に認識する抗血清を作成した。 なお、令和3年度では、成果に基づいて国内学会発表(日本藻類学会1件)を実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
強毒ウイルスに混在する弱毒化因子探索を行い、DNAウイルス株274株の中の約1割に弱毒化因子DNA配列を見出し、想像以上に弱毒化因子が珪藻ウイルスと共に存在することを確認した。本研究で対象とする珪藻種には、配列の違いから3タイプのDNAウイルスが存在している。これら3タイプを含む274株のDNAウイルス株の中に弱毒化因子が含まれていたのは、type-Ⅱ、-IIIのDNAウイルスであった。これらの株に含まれる弱毒化因子がどのような核酸配列を持っているかについて解析を行った。ORF領域については、DNAウイルスtype-Ⅱ、-IIIいずれの由来であっても、その配列には大きな違いは見出されなかった。しかしながら、ORFでない領域では、両DNAウイルス由来の因子同士で比較できないほどに配列が異なっていた。また弱毒化因子には、それぞれの由来のDNAウイルスの部分配列が含まれていることを発見した。この結果は、弱毒化因子がDNAウイルスと深い関係を持って存在していることを強く示唆するものであった。これらの成果は、世界的にも本研究が初めて明らかにしたものであり、本研究の進捗が十分であることを示している。 また課題2では、今後研究で使用する弱毒化因子のSS12-43V-SVを特異的に認識する抗体を作製した。カプシドタンパク質遺伝子配列を大腸菌のコドンユーセージに合わせて最適化し、発現用ベクターに組み込み発現用大腸菌に導入した。さまざまな発現条件でタンパク質合成を試みた結果、高純度のSS12-43V-SVカプシドタンパク質を得ることができた。得られたタンパク質を抗原としてモルモットに投与して抗血清を得た。昨年度には強毒ウイルスのカップシド抗血清を得ており、これらの成果によって両者を交代で分けて検出できる手法を確立した。これらの成果から、問題なく本課題が進捗していると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、強毒ウイルス、弱毒化因子のタンパク質の大量に培養から、密度勾配遠心分離法等で両因子を単離精製することを試みる。得られたこれらの粒子は、条件検討を繰り返して得られた結晶を、X線結晶構造解析に供し、大型放射光施設によって両因子の粒子タンパク質の構造を解明する。また、令和3年度における生理実験では弱毒化因子の機能を見出すことができなかったため、強毒ウイルスのみの株と弱毒化因子が存在する株を用い、それぞれを宿主珪藻細胞に感染させた時の、死細胞数、ウイルス複製等の経時変化を把握する。可能であれば、感染時の発現遺伝子解析も行い、弱毒化因子によって起こる、珪藻の生理的変化(ウイルス抵抗性等の生理変化)の解明を目指す。また、DNAウイルスと弱毒化因子の定量解析が必要になるため、令和4年度には強毒ウイルスと弱毒化因子の部分配列を対象にした定量PCR系を確立する。この検出系は、実際の現場サンプル(海水、底泥)でも適用可能かの評価に用いる。他に、強毒ウイルスと弱毒化因子の配列間比較を行うため、サザンブロッティングによって両者の配列の±を評価し、どのような関係性にあるのかを明らかにする。 また、これまでに作成した強毒ウイルスと弱毒化因子の抗体を用いたWestern Blottingを実施し、検出感度が十分あるか等を確認する。また昨年度には成功していなかった、珪藻細胞内での両因子の感染動態(どこで、どのように複製されるのか)を、透過型電子顕微鏡の連続切片観察によって把握する。
|