2021 Fiscal Year Annual Research Report
神経科学的根拠に基づいたヒトの生体へ作用する高速点滅光特性の解明
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20H03335
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Research Institution | Fukuoka Women's University |
Principal Investigator |
小崎 智照 福岡女子大学, 国際文理学部, 准教授 (80380715)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高雄 元晴 東海大学, 情報理工学部, 教授 (90408013)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 内因性光感受性網膜神経節細胞 / LED / 点滅光 / 概日リズム系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の代表者は異なる波長と周波数の点滅光に対する網膜電位について検討した。その結果、周波数30Hzの短波長(青色)と長波長(赤色)の点滅光に対してはどちらも同程度の網膜電位の振幅が確認されたが、100Hzでは短波長の点滅光に対する振幅が大きかった。内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsically photosensitive retinal ganglion cell:ipRGC)は長波長ではなく短波長の光にのみ応答することから100Hzの高速点滅光に対してipRGCが主に応答していることが示唆された。しかし、この結果はデューティー比(1周期における点灯と消灯の時間割合)を50%に固定したものである。よって、異なるデューティー比の点滅光に対する網膜電位も検討した結果、デューティー比70%の点滅光に対する網膜電位の振幅はデューティー比50%に比べ有意に小さくなり、特に短波長の点滅光で顕著であった。この結果から点滅光に対して同期したipRGCの反応にはある程度以上の消灯時間が必要である可能性が示された。 次に分担者の実績として、視細胞層を欠失したマウス剥離網膜標本においてipRGCが最も高い感度を示す470nmの刺激光の強度、デューティー比を様々に変化させて局所網膜電図を記録した。その結果、光の反応性が非線形に変化することがわかった。単回の光刺激に対する過渡的な局所網膜電図では5msから90msの刺激時間の範囲内で刺激時間の延長にともなって線形に振幅が増大、閾値の低下が認められた。しかし、頻回の光刺激(10Hz, 50Hz, 100Hz)に対する定常的な局所網膜電図では、デューティー比(50%、 80%、90%)の間にこの線形性は認められなかった。この原因としてipRGCの細胞膜表面に発現しているTRPC6やTRPC7のチャンネルの特性が関わっている可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の代表者は異なる周波数、波長、デューティー比の点滅光に対する網膜電位より、ヒトのipRGCの応答特性について検討し、ヒトのipRGCも100Hzの点滅光に対して同期した反応を示すことと、点滅光特有の反応にはある程度以上の消灯時間が必要である可能性を示した。また、分担者は視細胞層を欠失したマウス剥離網膜標本においてipRGCから異なるデューティー比と周波数に対する局所網膜電図を測定し、デューティー比に対する電位反応が非線形を認めた。以上の成果はそれぞれ国内学会にて発表3件、学術雑誌論文2編として報告した。これより、本研究の進捗は概ね予定通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
代表者の本年度の結果より、ヒトのipRGCも100Hzの高速点滅光に同期した反応を示すことと、点滅光に対する特異的な反応にある程度以上の消灯時間が必要であることを示した。しかし、ヒトの網膜電位はipRGC以外の視細胞の活動も含まれていることと、網膜電位には瞬きなど人体の他の組織からのアーチファクトや電磁波などのノイズなどが混入した可能性などを払拭できない。初年度に短波長の点滅光に対する網膜電位の日内変動を観測したことから、これらの網膜電位にipRGCの活動が反映されていると考えられるものの、この日内変動が時計遺伝子に起因した可能性もある。代表者の先行研究より、夜間の光によるメラトニン分泌抑制はそれ以前の明環境で軽減されることが報告されている。つまり、ipRGCは明順応し、その後、感受性が低下すると考えられている。そこで、今後の計画としては点滅光に対する網膜電位の明順応を検討し、点滅光に対する網膜電位にipRGCの活動が含まれていることを改めて確認する。また、分担者は、本年度、視細胞層を欠失したマウス剥離網膜標本のipRGCから異なる周波数やデューティー比の光に対する電位特性を明らかにしたものの、その反応が長時間継続するのか不明である。よって次年度はipRGCの反応が光に対して長時間維持し続けることが可能か検討する。
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