2021 Fiscal Year Annual Research Report
分界条床核での神経情報伝達可塑的変化に着目した抑うつ・不安情動生成の分子機構解明
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20H03389
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
南 雅文 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (20243040)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 不安 / 抑うつ / 分界条床核 / 慢性痛 / ストレス / 情動 |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性痛とうつ病・不安障害の併発率が高いことから両者に共通の神経基盤の存在が推測される。申請者らはこれまで、痛みによる負情動生成に分界条床核における神経情報伝達が関与していることを明らかにしてきた。そこで本研究では、分界条床核での神経情報伝達可塑的変化に焦点を当てた研究により、慢性痛による抑うつ・不安惹起の脳内メカニズムを明らかにすることを目的とする。2020年度は、慢性痛時に分界条床核から外側視床下部に投射する神経路が抑制されることにより不安様行動が亢進することを明らかにした。2021年度は、分界条床核から外側視床下部に投射する神経を制御する上流の神経細胞の同定を行った。分界条床核においてCARTペプチドを産生する神経細胞(以下、CART神経)特異的にCreリコンビナーゼを発現する遺伝子組み換えマウスを用いてCART神経に光感受性イオンチャネルを発現させた。当該マウスより作製した脳スライスを用いた電気生理学的解析により、CART神経の活性化が分界条床核から外側視床下部に投射する神経細胞への抑制性入力を増加させることを明らかにした。さらに、改変型GPCR(hM4Di)とその特異的リガンドであるClozapine-N-oxide(CNO)を用いたDREADD法によりCART神経を抑制すると、慢性痛により増加した分界条床核から外側視床下部に投射する神経細胞への抑制性入力が減少するとともに、慢性痛により亢進した不安様行動が抑制されることを明らかにした。以上より、慢性痛時には、分界条床核内CART神経の活動が亢進し、分界条床核から外側視床下部に投射する神経路が抑制されることにより不安様行動が亢進していることが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
慢性痛動物において分界条床核から外側視床下部に投射する神経細胞への抑制性入力が増強していることを明らかにした2020年度の研究成果にもとづき、当該神経路を制御する上流の神経機構の解明を目的として研究を行った。当初計画したCRF神経に加え、CART神経についても検討を行った結果、慢性痛時に、分界条床核内CART神経の活動が亢進し、その下流にある分界条床核から外側視床下部に投射する神経路が抑制されることにより不安様行動が亢進していることを示唆する研究成果が得られた。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度のマウス慢性痛モデルを用いた電気生理学的・行動薬理学的解析により、分界条床核内CART神経の活動が亢進し、その下流にある分界条床核から外側視床下部に投射する神経路が抑制されることにより不安様行動が亢進していることを示唆する研究成果が得られた。2022年度は、分界条床核内CART神経に痛みの情報を伝達する経路を明らかにするとともに、当該経路における神経情報伝達が慢性痛によりどのように変化しているかを明らかにすることを目指す。神経性の情報伝達に関しては、腕傍核から分界条床核に入力する神経路に焦点を当て電気生理学的・行動薬理学的解析を進める。また、左右いずれか一方の後肢に慢性痛を誘発した場合でも、左右両方の分界条床核において神経情報伝達可塑的変化が観察されることから、ホルモンなどの液性因子の関与が推測されること、また、コルチコステロン投与が抑うつ・不安を惹起することが知られていることから、グルココルチコイド慢性投与により、うつ病モデルマウスを作製し、分界条床核から外側視床下部に投射する神経への抑制性入力の変化について電気生理学的解析を行う。
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