2021 Fiscal Year Annual Research Report
負荷で顕在化するホルモン分泌不全の謎:グラニン蛋白欠損マウスから生活習慣病に迫る
Project/Area Number |
20H03411
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Research Institution | Asahikawa Medical College |
Principal Investigator |
渡部 剛 旭川医科大学, 医学部, 教授 (80220903)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
甲賀 大輔 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (30467071)
穂坂 正博 秋田県立大学, 生物資源科学部, 教授 (80311603)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | グラニン蛋白 / 分泌顆粒 / ホルモン分泌調節 / プロセシング / 膵島β細胞 / 下垂体前葉 / 視床下部 / 生活習慣病 |
Outline of Annual Research Achievements |
内分泌細胞の分泌顆粒へのペプチドホルモンの選択的な輸送・蓄積過程には、グラニン蛋白と総称される一群の可溶性酸性蛋白の関与が示唆されてきたが、複数のグラニン蛋白の存在による機能的冗長性のために、その生理的意義については未だ不明な点が多い。そこで、本研究課題では、このグラニン蛋白の生理的意義の解明を目指して、2系統の代表的なグラニン蛋白、セクレトグラニンII (Sg2)およびセクレトグラニンIII (Sg3)の遺伝子欠損マウス (KOマウス) を作成し、ホルモン分泌需要を増大させた場合に顕在化する内分泌学的不全症状を解析している。2021年度には、2020年度までに研究分担者の穂坂正博が新規に確立したSg2-KOマウスを高脂肪/高糖質食で飼育し、体重増加曲線の変化や耐糖能異常の有無などを検討した。その結果、既に得られているSg3-KOマウスと同様に、高脂肪/高糖質食で膵島β細胞に負荷をかけると、顕著な肥満や耐糖能の異常など2型糖尿病様の症候が顕在化することが明らかになった。この解析と並行して、やはり代表的なペプチド性内分泌組織である下垂体前葉でグラニン蛋白欠損による影響の有無を明らかにすべく、野生型マウスを比較対象として、Sg2-KO、Sg3-KOマウスの下垂体組織における遺伝子発現の変化をDNAマイクロアレイで比較・解析した。その結果、Sg2-KO、Sg3-KOのどちらのグラニン欠損マウスの下垂体でも、下垂体前葉ホルモン遺伝子の発現が全般的かつ顕著に低下(野生型と比較して50-25%)していることが明らかになった。この実験結果から、グラニン蛋白の欠損は視床下部性の下垂体前葉ホルモン放出ホルモンの分泌障害を誘発するのではないかと考え、視床下部-下垂体系の神経分泌細胞におけるグラニン蛋白の発現様式の詳細な解析に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度もCOVID-19感染状況が改善せず、旭川医大と秋田県立大の2つの研究拠点間での往来ができなかったため、当初計画していた実験、特に新規に確立されたSg2-KOマウスに内分泌学的負荷をかけた条件下での形態学的解析用組織標本採取について進捗状況の遅れが生じた。ただし、本研究課題の基盤となる新規Sg2-KOマウスは順調に繁殖・増加し、通常飼育条件下での形態学的標本作成や生化学的解析は着実に進展しているので、当初の研究計画に沿った目標達成に関しては、 2022年度以降にCOVID-19感染拡大傾向が収束すれば、十分挽回可能と考えている。なお、2020年度に穂坂正博が新規確立したSg2-KOマウスは、2021年度に理化学研究所バイオリソースセンターに寄託・譲渡し、2023年度から一般の研究者にも公開・活用していただけるよう手続きを完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度までの解析でSg2-KOマウスが通常の飼育条件下ではホルモン分泌異常の症候を示さず、高脂肪/ 高糖質食で飼育するとはじめて異常な体重増加や耐糖能異常など2型糖尿病様の症候が認められることが明らかになったので、この分子生物学的な原因となりうる膵島β細胞の微細構造変化や活性型インスリン産生能の異常の有無について、既に得られているSg3-KOマウスの所見と比較しながら、解析を進める予定である。また、グラニン蛋白の欠損が下垂体前葉に与える影響に関しては、その上位制御器官である視床下部の神経分泌細胞におけるホルモン産生・分泌障害が示唆されたので、視床下部の神経核(弓状核、視索前野、室傍核など)や正中隆起および下垂体後葉についても、Sg2-KOマウスとSg3-KOマウスを用いて形態学的/生化学的解析を進めていく予定である。さらにこれらの解析と並行して、我々の研究グループで確立したSg2-KOマウスとSg3-KOマウスを元に、Sg2/Sg3-DKOマウスの作成・解析も進めていく計画である。
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