2020 Fiscal Year Annual Research Report
Naked spineから読み解く小脳シナプスの新しい形成・動作原理
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20H03420
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
掛川 渉 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (70383718)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山崎 世和 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (60581402)
伊藤 政之 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (20442535)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | シナプス / 炭酸脱水酵素 / 記憶・学習 / 小脳 |
Outline of Annual Research Achievements |
情報伝達の場であるシナプスは、記憶・学習の形成や種々の精神神経疾患に関わる重要な部位である。私たちはこれまで、運動記憶・学習を担う小脳回路シナプスがNeurexin-Cbln1-GluD2複合体を介する新しい「シナプス架橋構造」によって構築されていることを明らかにしてきた (Science '20,'16,'10; Neuron '19,'15; Nat Neurosci '05など)。この架橋構造の破綻は小脳シナプスに特有の障害をもたらし、シナプス前部との接触が外れる“裸のスパイン (naked spine)”と称するシナプス異常を伴う。近年、naked spineを示すことが報告された炭酸脱水酵素8 (carbonic anhydrase-related protein 8;CA8) 変異自然発症マウスが、Cbln1, GluD2欠損マウスと同様、重篤な小脳失調様行動を示すことが見出されている。しかし、細胞内タンパク質であり酵素活性をもたないCA8が脳内でどのように働いているかはまったく不明である。そこで本研究では、小脳シナプスの形成・動作原理の分子的解明を目指し、脳内CA8の機能について追究した。 CA8 は小脳回路の要衝を担うプルキンエ細胞に豊富に発現することから、まず、CA8-KO マウスの小脳機能を解析した。すると、この KO マウスにおいて重篤な小脳失調が観察され、歩行障害や運動機能障害といった異常表現型が認められた。次に、プルキンエ細胞上に形成される興奮性シナプスの形成および機能を形態学および電気生理学的手法により解析すると、数多くのnaked spineを散見するとともに、劇的なシナプス機能障害が観察された。以上の結果から、CA8 は小脳シナプスの形態形成および機能に必須なシナプス関連分子であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今回、CA8の自然変異マウスにおいて認められているシナプス形態異常(naked spine)を確認するために、CA8欠損マウス(CA8-KOマウス)を作製し、KOマウスの表現型解析を進めた。その結果、CA8-KOマウスは、これまでに報告されてきた形態異常ばかりでなく、電気生理学的にも、また、個体行動レベルでも重篤な異常表現型を示すことが確認された。これらの重篤な異常表現型の検出は、脳内CA8の機能的重要性を示唆するものであり、今後、新たに見出した異常表現型を足掛かりとして、脳内CA8の生理的役割の解明研究に展開できるものと期待される。以上の理由から、本研究は「当初の計画以上に進展している」ものと考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、CA8-KOマウスにおいて、新たに見出した異常表現型を足掛かりとして、脳内CA8の生理的重要性を明らかにしていきたい。
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