2021 Fiscal Year Annual Research Report
Fundamental research on cardiac nanophysiology for clinical application
Project/Area Number |
20H03421
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
福田 紀男 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (30301534)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
照井 貴子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (10366247)
小比類巻 生 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (40548905)
大山 廣太郎 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主幹研究員 (70632131)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 筋肉生理学 / 分子・細胞生理学 / 心臓 / 循環器 / ナノ計測 / イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目標は、心臓拍動を、分子・細胞レベルの力学特性・熱特性と関連付けて理解し、病態メカニズムの解明、ならびに新たな診断・治療法の基盤技術の開発に挑むことである。この目標に向けて申請者は、2021年度、「細胞熱・力学」という独創的な観点からin vivo心筋収縮のメカニズムを詳細に解析した。その結果、力学特性の解明において顕著な成果を得た。
申請者らは、in vivoマウス心筋細胞内の筋原線維のZ線にGFPを発現させ、単一サルコメアの動態を高空間(10 nm)・時間(10 ms)分解能で解析することのできる顕微システムを開発している(J Gen Phyiol 2016-1)。この顕微システムを駆使し、2021年度、A.F. Huxleyらが提唱した筋生理学の定説を覆した。すなわち、従来の筋生理学では、細胞内Ca濃度の上昇にともなって筋原線維にわたるすべてのサルコメアが同調して活性張力を発生すると考えられている。申請者らは、個々のサルコメアの動きと筋原線維全体の動きの相関性を表す指標として"contribution index(CI)"を導入した(完全非同調:-1、完全同調:+1)(J Gen Phyiol 2021)。その結果、in vivoマウス心臓において、同一筋原線維であるにもかかわらずに各々のサルコメアは同調して動いておらず、生理的条件下(左心室内圧:~100 mmHg)、CIの値は約+0.3に過ぎなかった。そして、同調率が上昇(低下)すると左心室内圧が上昇(低下)することを明らかにした。これは、「サルコメア運動の同調性」が筋収縮力を制御していることを示しており、当該分野における歴史的な研究成果であるといえる。申請者らの論文はJ Gen Phyiol誌のCommentaryに取り上げられた(J Gen Phyiol 2022, 154: e202113022)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多くの心臓研究は、依然として「生物学」に基づいて行われている。そのため、心筋細胞内における分子パラメーターが普遍化・体系化されておらず、系統的な理解につながっていない。また、心臓の「階層性」を考慮せず、細胞や組織で得られた知見をそのまま個体に当てはめて考察している研究が大半を占める。2021年度の研究において申請者は、in vivoマウス心筋細胞内のサルコメア動態を最新の蛍光顕微装置によって詳細に解析し、1)同一筋原線維に存在するにもかかわらず、各々のサルコメアは同調して動いていないこと、2)筋原線維を通して個々のサルコメアにわたる力学的エネルギー配分機構(distal intersarcomere interaction:J Gen Physiol 2021)が存在すること、3)2)によってサルコメア動態が平滑化され、「平均値」として安定した収縮・弛緩波形が 出現することを明らかにした。これは、筋生理学における画期的な知見であると確信する。
また申請者は、熱的特性についても一定の成果を得た。すなわち、骨格筋に発現している1型リアノジン受容体(RyR1)に変異が生じるとCa放出が促進し、悪性高熱症の原因となる。申請者は、本研究の分担者を務めている大山廣太郎(量子科学技術研究開発機構)らと共同で、赤外レーザーを局所に負荷し(精度:<1℃)、数℃の温度上昇によって変異RyR1からCaが放出するという新しい現象を発見した(Heat-Induced Ca-Release:HICR)(論文投稿中)。悪性高熱症が誘発されると、骨格筋細胞において温度が上昇し、HICRを介してCa放出が促進され、さらなる温度上昇が惹起されると考えられる。ここで用いた実験手法は、心筋研究にも応用可能である。
以上より、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度、以下の研究を行う。
Ⅰ)上述したように申請者は、in vivoマウス心筋細胞内のサルコメア動態の解析に成功している。本年度、サルコメアよりも上の階層である心筋細胞に焦点を当て、心筋細胞間の同調性を探る。また、サルコメアや心筋細胞の動態を心臓の各部位において系統的に解析し、リズミカルな心臓拍動が生み出される仕組みを解き明かす。 Ⅱ)申請者らは、Ca濃度依存的に蛍光強度を変化させるCaセンサーを心筋細胞のZ線に発現させ、細胞内局所Ca濃度とサルコメア長の同時計測に成功している(J Gen Physiol 2016-2)。この技術を応用し、マウスin vivo心臓の様々な部位における心筋細胞内局所Ca濃度を計測する。また、試薬を用い、心筋細胞の膜電位を計測する。すなわち、「in vivo心筋興奮収縮連関」研究を創出し、この仕組みを明らかにする。 Ⅲ)研究協力者の森本幸生(国際医療福祉大学)は、心筋トロポニンT遺伝子ΔK210ノックインマウス(拡張型心筋症)を作出している。このマウスを用い、サルコメアの収縮性・サルコメア間同調性の他、心筋細胞の膜電位や細胞内Ca濃度を調べる。他、健常マウスの冠動脈を結紮することで心筋梗塞モデルを作製し、「in vivo心筋興奮収縮連関」がどのように変調しているかを明らかにする。 Ⅳ)申請者らは、体温よりも2~3℃高い条件において心筋細胞がCa非依存性に収縮することを見出している(BBRC 2012)。この収縮では、サルコメアの細いフィラメントが熱の受容器として機能している。申請者らが報告している一分子滑り運動系(J Gen Physiol, 2019)を応用し、「熱刺激収縮」における制御タンパク質(トロポニン、トロポミオシン)の役割を明らかにする。
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Research Products
(4 results)