2020 Fiscal Year Annual Research Report
がんに起因する多臓器の代謝異常を制御する新しい宿主因子の病態機能解析
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20H03451
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
河岡 慎平 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 特定准教授 (70740009)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | がん / がん悪液質 / マウス遺伝学 / 代謝 / マルチオミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
がんによって生じる宿主の代謝異常の全貌は未解明であり、また、それぞれの異常に重要な宿主側の責任因子がわかっているケースは稀である。本研究は、がんに起因して起こる多臓器の代謝異常を制御する新しい宿主因子の機能解析にとりくむものである。
本年度は、新しく同定した宿主因子が、がんに起因して起こる多様な代謝異常のどの部分にどのように作用しているのかを調査した。本実験には、乳がんや大腸がん、肺がん、卵巣がんといった複数のがん移植モデルを用いた。必要に応じて、公共のデータベースから取得可能であった遺伝学的肺がんモデルのデータも活用した。野生型および宿主因子欠損マウスに対してがんを移植し、複数の宿主臓器に対するマルチオミクス解析をおこなったところ、本宿主因子の欠損により、複数の宿主臓器における代謝異常が緩和されることがわかった。緩和された異常の中には生命の維持にとって重要な代謝経路における異常が含まれていた。この異常の緩和は、血液レベルでも観察することができた。このことから、これらの代謝の異常が、担がん個体の生命予後を悪化させていると考えられた。本因子と当該代謝経路の関わりは全くの未報告であり、オミクスを活用した本研究アプローチがこの発見を可能にしたと言える。
さらに、本宿主因子の欠損がどのように代謝異常を緩和するのかを調べた。その過程で、本宿主因子が作り出す代謝物の一つに、前述の代謝経路に作用する新しい生理活性があることが明らかとなった。一方で、当該代謝物や宿主因子では説明できない異常を見つけることもできた。以上の結果により、本宿主因子を基軸としてがんによって起こる宿主の代謝異常を切り分け、整理するための重要な基盤が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新規に同定した宿主因子を起点として、がんによって起こる多臓器の代謝異常を整理することができた。遺伝学とマルチオミクスを活用することにより、多様な異常のどれが本因子に依存しており、どれが本因子に依存していないかを切り分けられたことが重要である。また、本宿主因子によって制御される代謝物が、がんに起因する代謝異常を制御する新たな因子であることも明らかにできた。これらの研究は、次年度以降、がんに起因する多臓器の代謝異常を、この新しい因子の病態機能解析を通して理解するための重要な基盤となる。以上のことから、計画はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでに得られた発見を論文成果として発表するとともに、本年度に発見した代謝経路同士の新しいリンク(本宿主因子ー代謝物ーその他の代謝経路)の分子メカニズム、また、これらのリンクがどのように担がん個体の予後を悪化させるのか、その病態生理的なメカニズムの解明にとりくむ。本研究で登場する複数の代謝経路に対して、遺伝学的・薬理学的に介入する必要が生じているため、この目的を達成するための新しいマウスの作製にもとりくむ。
これまでのデータから、本宿主因子では説明できない代謝異常を見出している。この切り分けによって、本宿主因子では説明できない異常にはどのような宿主因子が関わっているのか、という新しい問いが生まれた。本宿主因子の病態機能解析を本研究の主軸としつつ、がんに起因して起こる代謝異常の全貌を解明する、という大きな目標に向かって、本因子以外の新規宿主因子に関する研究も並行して実施したいと考えている。
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Research Products
(7 results)