2021 Fiscal Year Annual Research Report
インフルエンザウイルス特異的な免疫応答を高める上気道常在菌の探索
Project/Area Number |
20H03491
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
一戸 猛志 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (10571820)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | インフルエンザウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
腸内細菌由来代謝産物は、インフルエンザウイルス特異的な免疫応答の誘導に役立っていることが分かっている。一方、インフルエンザウイルスの感染の場となる上気道にも常在菌が生息しているが、この上気道常在菌がウイルス特異的な免疫応答の誘導やワクチン効果に与える影響は不明である。そこで本研究では、上気道常在菌がインフルエンザウイルス特異的な免疫応答の誘導やワクチン効果に与える影響を解析した。マウスの上気道常在菌を抗生物質で死滅させるとインフルエンザウイルス感染後に誘導されるウイルス特異的な抗体応答が増加することを見出した。MyD88欠損マウスではこの効果が認められなかったことから、死滅した上気道常在菌由来の病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular patterns, PAMPs、)がアジュバントとして機能し、ウイルス特異的な抗体応答を増加させていることが分かった。またマウスやヒトの鼻腔内に生息する常在菌数は口腔内の1/10~1/100と少ないことが分かり、スプリットワクチンだけを経鼻投与しても十分な抗体を誘導できない原因が上気道常在菌の数や質によるものであることが示唆された。そこで培養した口腔菌をワクチンと混合して経鼻投与すると、ワクチン接種群ではウイルスに対する抗体が誘導され、インフルエンザウイルスやSARS-CoV-2の増殖量が有意に抑制されていることを確認した。本研究成果は上気道粘膜でウイルスの感染そのものを阻止する経鼻ワクチンの効果を高めるための研究に役立つと期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
経鼻インフルエンザワクチンに関するこれまでの研究から経鼻ワクチンはウイルスの感染の場となる上気道粘膜にウイルス特異的なIgA抗体を誘導するため、ウイルスの感染そのものを阻止する有効なワクチンであることが分かっていた。しかしスプリットワクチンであるインフルエンザウイルスのHAワクチンだけを経鼻投与しても十分な抗体応答を誘導できないため、ワクチンにアジュバントを添加する必要があった。また腸内細菌がワクチン効果に与える影響は解明されてきた一方、上気道常在菌が経鼻ワクチンの効果に与える影響については不明であった。本研究では、マウスの上気道常在菌を抗生物質で死滅させるとインフルエンザウイルス感染後に誘導されるウイルス特異的なIgGおよりIgA抗体応答が増加することを見出した。同様に上気道常在菌をリゾチームで破壊することにより、同時に経鼻投与したインフルエンザHAワクチンに対する抗体応答が増加することを確認した。MyD88欠損マウスではこの効果が認められなかったことから、死滅した上気道常在菌由来の病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular patterns, PAMPs)がアジュバントとして機能し、ウイルスやワクチン特異的な抗体応答を増加させていることが示唆された。またマウスやヒトの鼻腔内に生息する常在菌数は口腔内の1/10~1/100と少ないことが分かり、スプリットワクチンだけを経鼻投与しても十分な抗体を誘導できない理由が上気道常在菌の数や質によるものであることが示唆された。そこで培養した口腔菌をワクチンと混合して経鼻投与することで、ワクチン接種群ではウイルスに対する抗体が誘導され、インフルエンザウイルスやSARS-CoV-2の増殖量を有意に抑制させることに成功した。本研究成果は2021年8月17日米国科学誌「mBio」にオンライン公開された。
|
Strategy for Future Research Activity |
ウイルス感染4週間後の鼻粘膜組織からリンパ球を精製し、ELISPOTアッセイ法により各グループの鼻粘膜組織に存在するIgGおよびIgA抗体産生B細胞数を比較する。さらに不活化全粒子ワクチンまたはインフルエンザHAワクチンとpoly(I:C)アジュバントを混合し、3週間隔で2度経鼻ワクチンを接種したときのワクチン特異的な血中のIgGおよび鼻腔洗浄液中のIgA抗体価をELISAで測定する。上気道常在菌低下グループでウイルス感染後および経鼻ワクチン接種後のウイルスまたはワクチン特異的なIgA抗体価が低下した場合、そのメカニズムの一端を解析する。具体的には、野生型マウスおよびMyD88欠損マウスから調製した骨髄を、放射線照射した野生型マウスおよびMyD88欠損マウスに移植する。これにより上皮系細胞が野生型で骨髄由来免疫細胞がMyD88欠損のキメラマウス(MyD88→WT)と、上皮系細胞がMyD88欠損で骨髄由来免疫細胞が野生型のキメラマウスマウス(WT→MyD88)を作製できる。これらのキメラマウスにインフルエンザウイルスA/PR8株を経鼻的に感染させ、感染4週間後の血清中のウイルス特異的なIgGおよび鼻腔洗浄液中のIgA抗体価をELISAで測定する。これにより、上気道常在菌が上気道粘膜または骨髄系細胞のMyD88依存的なシグナルを介することにより、ウイルス感染から4週間後の鼻粘膜上へ分泌されるウイルス特異的なIgA抗体価に影響を与えている可能性を検討できる。さらに上気道常在菌が低下したグループに、インフルエンザウイルスA/PR8株を経鼻的に感染させ、鼻腔洗浄液を回収する。鼻腔洗浄液中に含まれるインフルエンザウイルスの量はMDCK細胞を用いたプラークアッセイ法により測定する。これにより、上気道常在菌がインフルエンザウイルスの複製に与える影響を解析する。
|