2020 Fiscal Year Annual Research Report
Understanding of the impact of infection microenvironment in HIV reactivation and cell-to-cell transmission
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20H03498
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
梁 明秀 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (20363814)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中林 潤 東京医科歯科大学, 統合教育機構, 教授 (80322733)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | HIV / エイズ / 微小環境 / 宿主因子 / 二次リンパ組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
HIV感染症は多剤併用療法(ART)により死亡率が劇的に改善し、今や慢性疾患として位置づけられつつある。しかし感染者の血中ウイルス量が検出限界以下になっても、体内に残存するHIV潜伏感染細胞すなわちリザーバー細胞がしばしば再活性化するため根治療法は存在しない。近年、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬などのLRA(latency reversing agent) によってウイルス遺伝子を再活性化させ、ARTと併用してHIVを排除する「shock and kill療法」が試みられているが、顕著な成果は出ていない。これは、LRAにより細胞から放出された数百~数千個のウイルス粒子が一気に隣接細胞へ細胞間伝播してしまうことで局所的な薬剤濃度や宿主免疫の効力が相対的に低下してしまうことが原因と考えられる。HIV感染症の根治のためには、ウイルスの再活性化や細胞間ウイルス伝播を含めたウイルス増殖機構を解明し、それらを阻止する新たな戦略が必要となる。本研究課題では、複数の細胞種が積層された生体環境に近い構造を持つ3次元感染細胞培養モデルを活用し、感染微小環境の数量的および質的変化に対するウイルス動態変化を考察し、それらに関与する新規宿主因子を同定する。本年度は、二次リンパ組織におけるHIV感染の場を模倣した3次元微小環境培養モデルの構築を行なった。本細胞培養モデルでは、LRAによるHIVの再活性化が認められたが、同時にI型インターフェロンを投与することで、ウイルスの細胞間伝播が抑制されることを見出した。また、HIV潜伏感染細胞では、ウイルス再活性化による自然免疫応答が誘導されないことから、HIVがコードするタンパク質が直接、宿主自然免疫シグナルを阻害することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、多層性HIV感染モデル系を樹立するため、レポーター遺伝子(HiBiT-LgBiTシステム)を応用した3次元培養モデルを構築した。ヒトリンパ節由来線維芽細胞様細網細胞をヒトテロメア逆転写酵素(hTERT)を用いて不死化し、HIV感染および非感染T細胞と混和した人工ミニリンパ組織を構築した。これに、ウイルス再活性化剤とともにI型インターフェロン (IFN) を投与すると、ウイルス遺伝子発現は上昇する一方、感染細胞から非感染細胞へのウイルス伝播量が著しく減少することを見出した。蛍光免疫染色により、HIV感染細胞内において、細胞膜に局在するはずのGagタンパク質が、細胞質内ボディに集積していることが示された。これらは、IFNにより誘導された因子群がGagを細胞質内の特定領域に隔離することでウイルスの細胞間伝播を阻止する可能性を示唆するものである。続いて、HIVが再活性化された際に、宿主の自然免疫応答を回避する機構の解明を行なった。HIVがコードするプロテアーゼ(PR)は,種々の宿主細胞タンパク質を切断することが知られていたため、PRが自然免疫シグナル関連因子を切断すると仮定した。詳細な解析の結果、PRはTBK1のC末端部分を特異的に切断し、TBK1のキナーゼ活性を顕著に低下させた。実際にHIV PR発現細胞では、二本鎖RNA刺激による自然免疫シグナルにおいて転写因子IRF3の核内移行とI型IFNの産生が減少した。一方、HIV再活性化における自然免疫応答は、プロテアーゼ阻害剤(PI)処理により顕著に回復した。さらに、PIに対する薬剤耐性変異を有するPRは、Gag前駆タンパク質の切断能は保持していたが、TBK1に対する切断活性が著しく低下していた。以上の結果より、HIV による自然免疫回避にPRが重要な役割を果たすことを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題では、複数の細胞種を積層させた高次の細胞培養モデルを用いて、再活性化や細胞間感染によるウイルス伝播の時空間的特性を明らかにし、それらを規定する宿主因子を様々な手法を用いてに明らかにする。今年度は、前年度に明らかにした細胞間伝播を阻止するインターフェロン誘導遺伝子(ISG)の同定を試みる。 具体的には、当研究室が有する約800種類のISGライブラリーの中から、Gagと直接相互作用する宿主因子を、NanoBRET等の手法を用いて探索する。さらにsiRNAなどのノックダウン手法を用いてHIV-1粒子産生や伝播を阻害する因子群の絞り込みを行う。また、細胞質内ボディ形成に関与するヒストン脱アセチル化酵素の影響を精査する。また、末梢血T細胞を用いた解析を進めることで、新たなHIV感染抑制因子の機能と同定に関する研究を進める。これらの実験データを基に数理モデルを構築し、生体環境を模した不均一な細胞集団下における感染伝播や薬効予測法を開発し、根治を目指した新規治療法の創出を目指す。
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Research Products
(2 results)