2021 Fiscal Year Annual Research Report
自己免疫寛容に関わる新規因子の生理的意義とその作用メカニズムの解明
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20H03507
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
吉田 英行 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 上級研究員 (80800523)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 自己免疫寛容 / 末梢組織特異的抗原 / 遺伝子発現 / AIRE / Zfp36L1 / Zfp36L2 / 負の選択 |
Outline of Annual Research Achievements |
免疫システムは様々な病原微生物に応答し、それらを排除し生体の恒常性を維持します。多種多様な病原微生物にもれなく応答するためには、遺伝子のランダムな再構成により実現される免疫細胞の多様性が必須であり、免疫システムの大きな特徴となっています。一方で、このランダムな多様性は、有害となりえる自己成分への反応性を同時に生じさせます。そのため、免疫システムが有効に働くためには、自己免疫寛容とよばれる自己成分に対する不反応のメカニズムが重要となります。この状態を成立させるメカニズムの一つが、自己反応性リンパ球の負の選択です。リンパ球が分化・増殖する胸腺では多くの末梢組織特異的抗原(PTA, peripheral Tissue-specific Antigen) が発現しており、それらに反応したリンパ球はアポトーシスを起こし死滅します。この負の選択により、自己反応性のリンパ球が除去され、自己への反応性が抑制されます。 これまでの研究から、転写因子AIREやFEZF2 がPTA発現を誘導することが知られていましたが、他の因子も存在することが推測されていました。私は、遺伝子発現プロファイリングやバイオインフォマティクスの技術を活用することで、PTA発現を誘導する新規因子の候補としてZfp36l1(zinc finger protein 36, C3H type-like 1)および Zfp36l2を同定し、遺伝子改変マウスを作成しました。これらマウスでは胸腺でのPTA遺伝子発現が減弱し、自己免疫の表現型が観察されます。本研究は、Zfp36l1とZfp36l2によるPTA発現制御について、その作用メカニズムと生理的意義を解明することを目的とします。これらの分子は転写因子とは異なるメカニズムによりPTA発現調整を行っていることが推測され、負の選択における新たな知見につながることが期待されます。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)表現型解析 PTA遺伝子発現コントロールの生理的意義を理解するためには、表現型の解析が重要となります。自己免疫の表現型は遺伝的系統(バックグラウンド)に左右されることより、B6とNODバックグラウンドへの戻し交配を行い、表現型解析を行いました。B6は自己免疫に比較的耐性であり、NODは感受性が高いことが知られますが、どちらのバックグラウンドにおいても、複数の臓器に対する自己抗体やリンパ球浸潤が観察され、胸腺上皮細胞におけるZfp36l1とZfp36l2が自己免疫寛容の成立に重要なことが明らかとなりました。 NODバックグラウンドでは、心筋炎が観察され、マウス個体の生存期間は10週齢~20週齢と顕著に短くなっていました。心筋炎はウイルス感染や、自己免疫反応が原因と考えられていますが、発症頻度の少ない疾病であり、病態の理解や治療方法の確立は十分ではありません。本遺伝子改変マウスは自己免疫性心筋炎のモデルとして役立つ可能性があると考えられました。 2)メカニズムの解析 一般に、Zfp36l1,Zfp36l2はmRNAの3’UTRのAU(アデニン-ウラシル)-rich elementに結合し、結合したmRNAは分解に導かれることが知られています。しかしながら、胸腺上皮細胞においても、同様のメカニズムで作用しているかは不明でした。そこで、mRNA分解に必須のCCR4-NOT複合体の構成因子であるCNOT1遺伝子改変マウスとの掛け合わせを行い、CCR4-NOT複合体が関与しているかを調べました。これらマウスでは、Zfp36l1,Zfp36l2遺伝子改変マウスで減弱していたPTA遺伝子発現が回復し、CCR4-NOT複合体依存的な発現制御であることが確認されました。PTA遺伝子発現がRNA転写以外でも制御されていることを示す知見であり、負の選択に関する我々の理解を深めるものでした。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの研究により、マウスの胸腺上皮細胞においてZfp36l1およびZfp36l2がPTA遺伝子の発現を制御することや、自己免疫寛容の成立に重要であることが明らかになってきました。しかしながら、Zfp36l1およびZfp36l2によるPTA遺伝子発現コントロールが自己免疫寛容を誘導するのか、その直接の因果関係は明らかにできていません。私は、これら遺伝子改変マウスの胸腺内で免疫細胞が一部減少していることを見出しており、Zfp36l1およびZfp36l2がPTA遺伝子発現コントロール以外の役割を果たしていることも考えられます。そこで、本年度の研究では、胸腺内の各種免疫細胞の変化を、週齢を追いつつFACS等の方法で詳細に調べ、これら上皮細胞以外の免疫細胞の変化が自己免疫様表現型の原因となっている可能性について検討します。とくに、胸腺内の樹状細胞は自己免疫寛容の誘導に重要なことが知られていることより、これら遺伝子改変マウスの胸腺樹状細胞については、遺伝子発現解析法による詳細な解析を行うとともに、細胞培養のシステムを利用し、機能変化についても調べます。 一方、Zfp36l1およびZfp36l2が負の選択におよぼしている影響をより直接的に調べる目的で、胸腺より各種リンパ球を単離し、それらのTCRレパトアを調べ、リンパ球に起こっている変化を明らかにします。これら遺伝子改変マウスにおいて観察される自己免疫様の表現型が、負の選択の異常に起因するのかが明らかになると期待され、胸腺上皮細胞におけるZfp36l1およびZfp36l2の生理的意義がより明らかになると期待されます。 また、本研究課題では今年度が最終年度であり、本課題を通じて得られた知見を年度内に論文発表できるよう、まとめていくことを目標とします。
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