2020 Fiscal Year Annual Research Report
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20H03512
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
日野原 邦彦 名古屋大学, 医学系研究科, 特任准教授 (50549467)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ATRX / epigenetics / chromatin remodeling |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ATRX変異陽性の市販の膠芽腫細胞株と患者由来膠芽腫細胞株を用いて、誘導性に野生型ATRXを発現するレスキュー株の作成を試みたが、全く発現誘導されないか、短期的に発現誘導できたとしても時間経過と共に発現抑制がかかってしまうという結果であった。IDH変異陽性の星細胞腫ではATRX変異が初期のドライバー因子であることが報告されており、今回用いた膠芽腫細胞株においてもATRX変異がその生存自体に重要である可能性が示唆されるため、ATRXをレスキューした細胞が何らかのメカニズムを介して排除され、レスキューを回避した細胞が残存してきていることも想定された。一方、ATRXレスキューと並行して進めてきたATRX抑制系の確立においては、CRISPRによるATRXノックアウト細胞株を複数樹立することに成功した。そこで現在、ATRXをノックアウトしても増殖能に影響のないことを確認したこれらの野生型ATRX発現株を対象として、CRISPRスクリーニングを実施するための誘導性ATRX抑制株の作成を進めている。スクリーニングに関しては、これら細胞株の樹立に先立って必要なCRISPRライブラリウイルスを準備し、コントロール細胞にてウイルス実験と解析パイプラインがワークすることを確認した。加えて、ATRXによるエピゲノム制御機構を明らかにするためにATRXのChIP-seqの実験系最適化も並行して進め、現在シークエンスデータ解析を行っている。以上のように、本年度は来年度以降のスクリーニングと機能解析に向けた実験・解析系の確立を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたATRX変異陽性の膠芽腫細胞株に野生型ATRXを発現誘導するレスキュー株の作成は予定通りに進まなかったが、IDH変異陽性の星細胞腫ではATRX変異が初期のドライバー因子であることが報告されていることから、ATRX変異が膠芽腫の生存にクリティカルでありATRXのレスキュー株の樹立が困難であることは想定内であった。そのため、ATRXの不活化変異をミミックするATRX抑制系の確立を本年度初頭より並行して進めており、現在までに野生型ATRXを保有する複数の膠芽腫細胞株にてATRXをCRISPRでノックアウトした細胞株を樹立している。これらの結果から、ATRX変異をレスキューすることは難しいが、ATRXを抑制することは可能であることが明らかとなったため、来年度にCRISPRスクリーニングを予定通り実施してATRXと合成致死性を示す遺伝子群を同定することが可能であると考えている。また、CRISPRスクリーニング自体に関する準備は順調に進み、予備検討からCRISPRライブラリウイルスのクオリティとスクリーニング実験及び解析パイプラインがワークすることを確認できた。ATRXによるエピゲノム制御機構の全貌を解明するには、ATRXのゲノム結合領域をグローバルに明らかにする必要があるが、ATRXのChIP-seqの実験系最適化も順調に進んでおり、現在までに複数条件下でのライブラリ作成を終えシークエンスデータ解析を行っている。以上のように、当初の研究計画はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
ATRXとの合成致死性遺伝子を探索するためにCRISPR/SpCas9を用いたゲノムワイドloss-of-functionスクリーニングを実施するには、CRISPRライブラリと互換性のある形でATRXの抑制系を確立する必要がある。ATRXをCRISPR/SpCas9でノックアウトしても増殖に影響のないATRX野生株を患者由来細胞株及び市販の膠芽腫細胞株にて複数同定しているが、本ノックアウトは同一システムにて作動するCRISPRノックアウトライブラリと交差反応してしまうことから、今後異なるCas9オルソログを用いてATRXをドキシサイクリン誘導性に抑制するCRISPRi実験系の作成を推進する。これらの細胞株を樹立した後に、ATRXのon/off条件下にてCRISPR/ SpCas9システムによるloss-of-functionスクリーニングを実施する。さらに、最適化したATRXのChIP-seqの実験系を用いて種々の細胞株におけるATRX結合領域をグローバルに明らかにするとともに、ATRXのon/off条件下にて変化することが予想されるクロマチンのオープン・クローズ状態をATAC-seqにより解析していく。現在、膠芽腫患者に対する効果的な治療薬はテモゾロミド(TMZ)以外に存在しないため、TMZに対する耐性獲得機構と耐性化におけるATRXの関与についても解析を進め、上記スクリーニング解析と併せた統合的アプローチから膠芽腫の新たな合成致死性・薬剤耐性メカニズムの理解を目指す。
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